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遥かなるプリムラの旅路[その1] プリムラ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

遥かなるプリムラの旅路[その1] プリムラ属

2016/12/27

全世界で知られているサクラソウ属(プリムラ属)の半数以上はヒマラヤ、チベット、雲南西部などに自生しています。中国でのプリムラ属は、特に雲南、四川地域に多くの種を見ることができます。高山や高原の小川の縁、湿原、山麓から水が染み出る場所、湿った草原などがプリムラ属の自生の環境といえましょう。種の数、自生する量も豊富で、多彩な色合いを持っています。プリムラ属はこの地域で発生し、北半球に広がっていったと考えられているのです。

ヒマラヤ山脈と中国横断山脈が出合う場所、そこは花き資源の宝庫といえる場所です。世界でも最も多くの植物が確認されている場所の一つです。写真は玉龍雪山です。5596mの頂はいまだ未踏峰と聞きます。数々の珍しい植物のほか、その懐にはウンピョウ(雲豹)、レッサーパンダ、キンシコウ(金糸猴)などの珍獣を養います。残念ながらその頂上は雲に覆われて姿を見せてくれませんでした。

ユーラシア大陸の西でも東でも、プリムラ類は春を告げる花といわれます。日本では春を象徴するサクラにちなんでサクラソウと呼ばれ、中国でも報春花(ホウライカ)と呼ばれます。昆明~麗江など雲南南西部の標高2500~3100mにある高山湿地、山麓の湿地などにはプリムラ ポイソニーPrimula poissoniiの群生が見られます。青色の花はシノグロッサムCynoglossum amabile、黄色の花はセネキオ属Senecioです。

プリムラ ポイソニーは根出葉から一茎を立ち上げ、大きな株では40cmの背丈です。花の大きさは1cm程度、花径に3~4段の輪性花を付ける宿根草です。

プリムラ ポイソニーの花の期間は4~6月と長く、人里近くでも群落を見ることができます。そのマジェンタ色はミヤコグサの黄色やアネモネ類の白色などと調和し、実に美しい3~5色の景観を作ります。プリムラの色を基本とした、マルチカラーが雲南高層草原の色だと思います。

4000m級の頂を持つ山の懐にある低地は、春に雪解け水で湖になります。それをチベットの人たちは「海」と呼びます。

低地の面積は1000ha程度。水が抜けると湿原から草原になり、見渡す限りプリムラ セクンディフローラPrimula Secundifloraが生えているのでした。

高山では標高によって同属の種が住み分けている様子が観察されます。標高が3200mを越えるとプリムラ ポイソニーの生えていそうな場所には、プリムラ セクンディプローラが生えます。

プリムラ セクンディプローラはプリムラ ポイソニーと花色は同じですが、小花柄が長く、花を下向きに咲かせます。ガク部分にプリムラ類独特の白粉を付けるのも特徴です。この種は高山および湿地にも適応し、決して乾燥することのない環境を必要とします。私が見た株は高さ20cm程度の中型でした。

次回も、もう少しこの地域のプリムラ属の話を続けます。お楽しみに。

JADMA

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