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ヒマラヤ巡礼 ヒマラヤシーダー

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ヒマラヤ巡礼 ヒマラヤシーダー

2017/02/07

壮大な題名に期待を持たれた方には申し訳ないのですが、寒い時期に、その美しい樹形と球果をめでる話です。多くの植物が地上の枝葉を枯らし、葉を落とす冬は、常緑針葉樹の美しさを鑑賞するのに都合のよい季節です。特にヒマラヤスギ(ヒマラヤシーダー)と呼ばれる樹木の葉色、木姿には何か神聖な感じを受けます。そして、その球果はバラの花にも似て、見た目も麗しく、愛好家にはシーダーローズと呼ばれています。

被子植物は世界で35万種といわれる一方、裸子植物はわずか1000種程度しか残存していません。葉が変形した種鱗(しゅりん)の集合物を球果といい、マツの仲間ではらせん状に胚珠(はいしゅ)が裸の状態で付いています。花粉が胚珠に付くと受精し、種子になります。種子の入れ物である球果は種類ごとに形状が違い独特です。ヒマラヤスギ球果の欠片は、冬にこずえから落ちるので各地のヒマラヤスギを巡り、写真のような球果を拾い集めるのが毎年楽しみです※。では、ヒマラヤスギ巡礼の始まりです。

※球果の採集には敷地管理者の許可を受けて行ってください。特に植物園や公園の場合、植物採集は禁止されている場合がありますので、観察のみ行いましょう。

誰が決めたのでしょう。世界三大美樹の一つに数えられるヒマラヤスギCedrus deodara(セドルス デオダラ)マツ科ヒマラヤスギ属。スギとは名ばかりのマツの仲間です。自生するのはヒマラヤ北西部、カシミールやアフガニスタンなどです。パキスタンでは国樹になっています。種形容語のdeodaraは神聖という意味です。

ヒマラヤスギは残念ながら日本には自生していません。明治時代の初期に外国人居留地のイギリス人が種子を輸入し、横浜市山手町に植えたのが始まりとされます。写真は(左)ヒマラヤスギと(右)横浜山手カトリック教会です。山手公園、フェリス女学院などに多くのヒマラヤスギの古木を見ることができます。

新宿御苑には山手町に植えられた兄弟たちが、独特の景観を作っています。あれから130年あまりが過ぎました。今では立派なヒマラヤスギに成長しています。

こちらは四国高松、栗林公園(りつりんこうえん)にあるヒマラヤスギです。この木の自然樹形は、幹が直立して、枝が水平もしくは下向して円錐型になります。明治30年代に植えられ、樹高20m樹齢110年余りになります。

ヒマラヤスギは陽樹でとても大きくなり、家庭用には向きません。広い庭園で楽しむ樹木です。葉は針葉で短い枝に輪生します。球果は雌花に相当し、ゆっくりと時間をかけて受精し成長していきます。

球果の形はたるのようです。私が持っているものは長さ13cm、幅10cmでした。しかし、通常ではこのようなたる状球果は手に入りません。

それは高いこずえについている球果が成熟すると、樹上で種燐が解け、種子を飛ばし、バラバラになって落ちてくるからです。

12~1月にかけてヒマラヤスギの植わっている公園を散歩すると、このような球果を見つけることができます。人気のお宝なので早い者勝ちなのですが、気のよいヒマラヤスギたちは一度に落とさず、時間差に落とすので丹念に探せば見つかるはずです。

先端は乾燥するとバラのように開くのです。熱を加えると樹脂がよい香りを放ちます。ヒノキの匂いにも似ていて、とても安らぐ自然の香り。アーユルヴェーダでは病気を癒やす力があるというのです。

ヒマラヤスギの周りでは、新しい世代が生まれていました。この赤ちゃんが立派な球果を付け、愛好家を楽しませてくれるようになるまでには、30年以上の月日が必要といわれています。

次回は「森の巨人 マングローブ」です。お楽しみに。

JADMA

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