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森の巨人とマングローブ[前編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

森の巨人とマングローブ[前編]

2017/02/14

日本の九州南方海上に位置する奄美大島から南の地域は、亜熱帯(subtropical area)気候です。節分を過ぎ、関東ではまだ寒さに凍えるときに、この地域では田植えが始まります。南北に長い国土を持つ日本は、亜寒帯に見られる針葉樹の純林、広葉樹との混成林から、亜熱帯に見られるジャングルやマングローブ林まで、多様な森を持っています。今回は日本の森の中でも東南アジアにつながる植生を持つ、南西諸島の森を見ていきます。そして南の島に生える、森の巨人にも会いに行きましょう。

南西諸島から南の河口などに成立するマングローブ植生は、他の地域にはない独特の植物からできています。マングローブという名前の植物があるのではなく、熱帯、亜熱帯気候の汽水域に作られる生態系のことをいいます。

沖縄那覇空港から那覇市内に向かう途中にその場所はあります。そこは湖ではなく、干潟です。メヒルギなどのマングローブを形成する植物を植林して、干潟の生き物を観察する公園になっています。

干潟に植えられたヒルギ類は、その場所から都市河川の沿岸に広がりました。公園の近くでは川の岸辺に根を下ろし、歩道から手に取る場所にメヒルギKandelia obovate(カンデリア オボバテ)ヒルギ科メヒルギ属を見ることができます。

メヒルギKandelia obovateは初夏に大きな白い5枚のガクと、小さな糸状の花弁を出します。日本では一番北に分布するマングローブを構成する樹木です。種形容語のobovateとは倒卵形をした葉の形に由来します。

植物は水と太陽光と二酸化炭素から栄養を作ることができます。地球上でこの条件が適切であれば植物を生えなくすることの方が難しいのです。海岸環境は太陽光条件からいうと魅力的です。しかし、塩水は浸透圧が高いので植物の細胞に塩が入り込み、変わりに真水が出ていきます。それでは漬物を作るのと一緒で植物は生きていけません。そこで植物たちは長い時間をかけて塩分耐性を開発したのでした。マングローブに生える植物たちです。葉を厚いクチクラ層で覆い、根に塩分を通さないフィルターを付け、体内の塩分を排出する技を身に付けたのです。

塩水環境に対応するためにタネを進化させた植物もあります。それはヒルギ科の植物です。生まれたばかりの芽生えは弱く、塩分耐性が未発達です。そこでこの仲間は木の上でタネを発芽させ、大きく育ててから生み落とすのです。それを胎生種子といいます。

樹上で育ったタネが木から落ち、運よく地上のカニなどが作った穴にはまり込めばしめたものです。ヒルギはそこに根を張り、大人になります。しかし全ての胎生種子がそのような幸運に恵まれるわけではありません。ついのすみかにたどり着けない胎生種子は水に漂い、旅をするのです。ヒルギは漢字で「漂木」と書きます。都市河川に分布を広げたメヒルギは旅をして分布を広げたのだと思います。

沖縄本島の北部に行くと自然がありのままに残っています。慶佐次(げさし)湾は国頭(くにがみ)郡にある日本最北の大規模マングローブです。カヌーによる観察のほか、遊歩道からマングローブ植生を観察することができます。

胎生種子を付けるヒルギ科は日本では3種類生えています。慶佐次湾ではこれらを全て見ることができます。オヒルギBruguiera gymnorhiza(ブルグイエラ ギムノリヒザ)ヒルギ科オヒルギ属は日本のマングローブ樹種の一つです。アカバナヒルギともいい大柄なヒルギです。赤く花のように見えるのはガクです。黄色く内側に見えるのが花弁です。

オヒルギBruguiera gymnorhizaの種形容語gymnorhizaとは裸出根という意味です。マングローブは干潟に作られます。土壌は泥質で満潮になると海水を含む水に浸ります。塩分に対する耐性という性質を獲得したマングローブ植生の植物たちは、泥や水の中で生きる工夫も開発しました。その一つが気根と呼ばれる器官と不安定な泥の中で自らを支える根の特殊化です。写真はオヒルギの気根です。マングローブの植物たちは種ごとに違う形状の気根をしていますので、種の同定に役立ちます。

次回は「森の巨人とマングローブ[中編]」です。お楽しみに。

JADMA

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