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森の巨人とマングローブ[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

森の巨人とマングローブ[後編]

2017/02/28

南西諸島はその地域によってさまざまな呼び方があります。八重山列島に宮古列島、尖閣列島を合わせて先島諸島ともいいます。その先島の名が付いた植物がいくつかありますが、西表島にはある特異な形状の根を持つサキシマスオウという名の植物が生えています。 [後編]ではマングローブジャングルをクルーズして、森の巨人、サキシマスオウの古木を訪ねます。

西表島は八重山諸島最大の島です。山があり、大きな川もあります。仲間川という河口に広がるマングローブ原生林の面積は160haあり、マングローブ林では日本最大規模です。そこに生えるヒルギは今までに見たものと同じ種でありながら、より大きく、ダイナミックで野生的です。

西表島は90パーセントほどが自然林です。島の内部に行く道路はありません。この島に分け入るには徒歩か船で川をさかのぼるしか方法はありません。仲間川の河口からジャングルクルーズが始まります。

船の上からもオヒルギの胎生種子がたわわになっているのが確認できました。

西表島のマングローブ林はさまざまな動物たちのすみかでもあります。カンムリワシSpilornis cheelaタカ科カンムリワシ属は、マングローブ林などに生息するアジア南部のタカです。八重山諸島は分布の北限です。

オヒルギのこずえにカンムリワシの幼鳥がいました。この島でカンムリワシは繁殖しているのです。カンムリワシはあまり人を怖がるようすを見せません。生態系の頂点に位置する猛禽類(もうきんるい)がのんびり暮らしていることは、西表島のマングローブ林の豊かさを示すものだと思います。

筍根(じゅんこん)の例です。マングローブ林に生える樹木は、葉がツヤツヤしている照葉で、幅広の濃い緑色をしているのでどれも同じに見えます。花が咲いていると判別ができますが、咲いていないとよく分かりません。しかし、それぞれの呼吸根がユニークなのである程度同定が可能です。
河口近くや塩分が強い場所に生えるマングローブの一つ、ハマザクロ(ヤマプシキ)の筍根です。ハマザクロSonneratia alba(ソンネラティア アルバ)ハマザクロ科ハマザクロ属。熱帯太平洋、そしてインド洋岸に生える植物で、西表島がこの種の世界的北限となっています。マングローブの泥の中は還元的環境です。酸素が不足するのでハマザクロは水の上に呼吸根を出し、不足する酸素を補っているのです。

支柱根(しちゅうこん)の例です。西表島において海からの近い場所では、塩分耐性の高いヤエヤマヒルギが優先樹種でした。写真はこの樹木が支柱根を出しているようすです。前述のハマザクロとともに、海との間で最前線を構築します。

膝根(しっこん)の例です。オヒルギの根の一部が泥の中から顔を出します。折り曲げられたように出る根を屈曲膝根(くっきょくしっこん)といいます。

板根(ばんこん)の例です。根が地上に出て、薄い板状になって四方に広がります。熱帯では落ち葉などの有機物代謝が急速に進むため、土壌が貧弱です。それゆえに表土が薄く、根を地中深くに張ることができません。そこで木々は大きくなる上部構造を支えるために板根をいう下部構造を開発しました。

熱帯雨林で巨大な板根を見たことがあります。その高さは4mほどもありました。日本で最も大きな板根を作る植物はサキシマスオウという植物でしょう。

サキシマソオウHeritiera littoralis(ヘリティエラ リイットラリス)アオイ科ヘリティエラ属。熱帯アジア、インド洋沿岸に生えるマングローブ生態系に生える樹木です。その植物は塩類耐性が弱いのか、陸生植物との境界線に生える常緑の高木です。

この木の樹高23m、板根の高さは2mを超えていました。35年前に発見され、おそらく日本最大のサキシマスオウではないかとされています。沖縄北部でもこの木を見ました。日本では、奄美大島がこの木の北限分布とされています。サキシマスオウの板根は、その形状から歴史的に船のかじに使われてきました。日本に生えるサキシマスオウが希少な樹種になってしまったのは人の生活によるものだと思います。
林野庁では、国有林内にある古木、巨樹を100本選定して、森の巨人として後世に引き継ぐ遺産としました。西表島の仲間川上流にあるサキシマスオウの木。奇妙で大きな板根を持つこの木は、自然の不思議さと雄大さを感じさせてくれる南の島に生える森の巨人、それは、東アジア的自然の豊かさを示すものです。

次回は「黄泉帰り ソテツ」です。お楽しみに。

JADMA

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