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鑑定の根拠[後編] ホウチャクソウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

鑑定の根拠[後編] ホウチャクソウ

2017/05/23

昨年の今ごろ、驚くようなニュースが飛び込んできました。それはギョウジャニンニク(行者大蒜)ネギ科とコルチカム(イヌサフラン)イヌサフラン科を間違えて食べ、中毒で亡くなった人が出たという知らせでした。痛ましい中毒事件がたびたび起こります。山草と毒草との採り間違い。特に春の芽出しのころ、よく似ている植物はいくつかありますのでしっかり覚えておきましょう。ナルコユリとアマドコロを間違えても大ごとにはなりませんが、よく似たホウチャクソウとアマドコロを間違えると大変です。それが困ったことによく似ているのです。

今までのユリ科は単子葉植物の多様な種の寄りあい所帯でした。遺伝子の塩基配列の研究から、近縁関係をひも解く現在の分類学であるAPGという分類学説において、ユリ科の再編成が行われたのです。前回取り上げたナルコユリやアマドコロはユリ科からクサスギカズラ科に変わりました。今回の話題であるホウチャクソウはユリ科からイヌサフラン科、チゴユリ属という分類になったのです。

イヌサフラン科の属主であるイヌサフランとはコルチカムのことです。コルチカムColchicum autumnale(コルチカム オータムナーレ)イヌサフラン科イヌサフラン属。ヨーロッパに生えるこの種は、夏に植えると根も葉もない状態から秋に花を咲かせる園芸種です。種形容語のautumnaleとは秋に花を咲かせるという意味です。その球根などにはコルヒチンというアルカロイドが含まれ、薬剤に使われるのですが、毒性が強く、いまだに解毒剤は知られていません。

これがイヌサフランの葉です。花が終わるとこのような葉を出します。これが山菜として有名なキョウジャニンニクに似ているのです。厚生労働省は自然毒のリスクプロファイルで嘔吐、下痢、皮膚の感覚減退、呼吸困難が起き、重症の場合は死亡することもあると注意を呼びかけています。

イヌサフラン科は毒草ですので注意が必要です。イヌサフラン科で日本の野山に自生するのがイヌサフラン科チゴユリ属です。前はユリ科とされていました。チゴユリDisporum smilacinum(ディスポーラム スミラシナム)イヌサフラン科チゴユリ属です。草丈は20cmくらいで1cmほどの小さな白い花を1つ付けているのがチゴユリです。写真のような環境に自生します。日本をはじめ東アジアの山地などの林床や林縁に分布する植物です。花は短命で春に咲き、すぐに白い花弁を散らしてしまうので開花を見るにはタイミングが重要です。

イヌサフラン科で一番身近に生えているのがホウチャクソウです。雑木林のやや暗い林床では最も普通に生えているといっても過言ではありません。ホウチャクソウDisporum sessile(ディスポーラム セッシレ)イヌサフラン科チゴユリ属。日本全土はもとより東アジアの大陸東岸に沿って北から南までの広範囲に自生します。アマドコロとは違うのですが、どことなく葉や姿、花がそっくりなので、間違って理解されることが多いのです。

左)アマドコロの花。基部で合着しています 右)ホウチャクソウの花。離弁しています

この写真がアマドコロと問題の毒草であるホウチャクソウの花です。葉と花が実によく似ているから困ったものです。

この写真には3つの植物が写っています。一番左がクサスギカズラ科のナルコユリ。真ん中が同科のアマドコロ。左がイヌサフラン科のホウチャクソウです。同じような笹みたいな葉を付けますが、ホウチャクソウの茎は枝分かれします。そして肝心の「根拠」も違います。地下茎を作るナルコユリとアマドコロ、ホウチャクソウは地下茎を作りません。

形態だけではなく、自生する環境も違います。ナルコユリやアマドコロが明るいところを好みますが、ホウチャクソウは竹やぶ、林床などの暗いところに生える陰性植物です。ホウチャクソウはイヌサフラン科ですので、全草が有毒と考えないといけません。若葉のころ山菜として利用されるアマドコロとくれぐれも間違えないようにお願いします。

ホウチャクソウを覚えるとこの植物が何科何属かお分かりいただけると思います。トウチクランDisporum cantoniense(ディスポーラム カントニエンセ)イヌサフラン科チゴユリ属。種形容語のcantonienseとは中国の広東を意味します。日本に自生はありません。中国の文献を調べました。台湾、広東、福建省、タイ、ベトナムに至りブータン、ネパールの高山に自生とありました。

トウチクランは開国の地、長崎のグラバー邸の庭に植えてありました。竹のようで、外花被、内花被に分かれたランみたいな花をつける中国の草なので、和名を唐竹蘭といいます。草姿は園芸植物のグロリオサやサンダーソニアに似ていますね。似ているはずです。これらの園芸植物もイヌサフラン科になりました。花は美しいのですが、決して口に入れないようお願いします。

次回は「海石榴 [前編]」です。お楽しみに。

JADMA

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