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風穴植物群[前編] オオタカネバラ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

風穴植物群[前編] オオタカネバラ

2017/06/20

オオタカネバラは名前のとおり、大きな高根のバラです。東アジアの高山や寒地に生え、本州では中部以北の高い山に隔絶的に分布し、個体量も多くありません。そして開花期も短いためになかなか出合うことが難しい植物です。通常、このバラを見るためには事前に開花情報を収集して、登山の準備をして、天候にも恵まれることが必要です。

オオタカネバラRosa acicularis(ローザ アシクラリス)バラ科バラ属。漢字で「大高嶺薔薇」と書き、オオタカネイバラともいいます。冷涼な気候を好む落葉低木で、本州では標高の高い場所にまばらに生えます。ところが、ある特殊な環境がこのオオタカネバラを低山に分布させているのです。それはどのようなことなのでしょうか。

福島県南会津郡下郷町には、塔のへつりという観光地があります。川岸の崖は堆積した岩の質によって風化と河川侵食の度合いが異なり、奇妙な景色を見せます。この場所から程近くに、本州における最大規模といわれるオオタカネバラの自生地があります。

そこは国指定天然記念物、中山風穴地特殊植物群落です。雪深い会津地方にあり、標高は500m程度の斜面なのですが、あちらこちらの地下から0度近い冷風が吹き出している場所です。

風穴は中山という低山の北東の山麓にあります。そこは一見ただの小高い丘にしか見えません。中山は環太平洋造山帯でできた安山岩が隆起した山と考えられています。

中山風穴地は縦に割ける構造(柱状節理)を持った安山岩でできていました。

その安山岩は下から押し出され、その圧力で崩れ、無数の隙間を含む大きな岩礫(がんれき)となります。岩礫の上には苔が生え、植物の腐植が積み重なり、土壌ができて木々が生えていました。この地の雨水や雪解け水は岩礫の隙間から地下に染み込んでいき、冬に凍ります。中山風穴地の地下には夏でも溶けない氷塊が蓄えられていると考えられています。そして氷で冷やされた空気は冷風となって岩礫の隙間を通り、地上に噴出していたのでした。

冷たい空気は比重が重く、谷筋を伝い、くぼ地にたまり、中山風穴地を冷やします。風穴の冷風は高い山の稜線に吹く風のようでした。その冷風が高根に生える植物の低山分布を可能にしているのです。

オオタカネバラの自生を見たいと思ってから何年たったのでしょうか。そこには夢のような空間が広がっていました。植物園で見たオオタカネバラはどこかはかない植物でしたが、自生地では元気一杯に命の輝きを放っていました。

オオタカネバラの開花期は自生地によって異なると思います。通常6~7月がこの種の開花期とされますが、2017年中山風穴地の6つの自生地では5月23日が絶妙なタイミングでした。深山の妖精オオタカネバラの開花は年によって気まぐれのようです。

次回は「風穴植物群[中編] オオタカネバラ」です。お楽しみに。

JADMA

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