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風穴植物群[後編] アカバナイチヤクソウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

風穴植物群[後編] アカバナイチヤクソウ

2017/07/04

地球の環境は温暖化と寒冷化を繰り返しています。北海道でサンゴの化石が見つかり、寒冷地や極地の植物が高山の気候を頼りに命をつないでいます。氷河期に南下して残存している植物はオオタカネバラだけではありません。高山植物の多くが同じ生い立ちです。オオタカネバラ以外の中山風穴植物群を紹介しますが、これらもまた風穴の冷風をよりどころに低山で暮らす寒地の植物です。

ドウダンツツジに似ていますが、葉も花もかなりの大型です。株の大きさは3m近い大きさでした。サラサドウダンEnkianthus campnulatus(エンキアンサス カンパヌラツム)ツツジ科ドウダンツツジ属。漢字では「沙羅灯台」と書きます。岬にある灯台ではなく、部屋に明かりをともす灯台です。庭に植えられているドウダンツツジより花が大きくて美しいのですが、暑さに弱く、気難しい性質で亜高山帯をすみかとします。

サラサドウダンには紅色の変種、ベニサラサドウダンツツジなどがあります。雄しべが10本、花の大きさは1cm程度でした。属名のEnkianthusは、妊娠でお腹が膨らんだ様子を表します。種形容語のcampnulatusとは、花がツリガネソウなどホタルブクロ属の花に似ているからでしょう。それにしても花が大きく美しい植物です。

風穴地ではオオタカネバラの他に目立つ植物がレンゲツツジです。レンゲツツジRhododendron japonicum(ロードデンドロン ジャポニカム)ツツジ科ツツジ属。種形容語のjaponicumの意味はお分かりだと思います。夏の高温乾燥を嫌い、高原に生える落葉性ツツジです。東アジアに生え、日本と中国に自生地があります。毒草であり、放牧地などで動物が食べ残すので、この植物が占有する景色を作ることがあります。オオタカネバラやこの植物の足元にはアカバナイチヤクソウがたくさん生えていました。

風穴地の植物は3次元的です。落葉広葉樹の下にはオオタカネバラやレンゲツツジが生え、地表近くにはベニバナイチヤクソウや冷涼な気候を好むシダが生えます。ベニバナイチヤクソウPyrola asarifolia sub incarunata(ピローラ アサリフォリア サブ インカルナータ)ツツジ科イチヤクソウ属。種形容語のasarifoliaとは、葉がカンアオイ属に似ているという意味ですが、似ていないと思います。変種名のincarunataは肉の色に似た花色であることを表します。

根出葉から15cm程度の総状の花序を立ち上げ、10個程度の赤い花を付けます。花の大きさは1cmくらい、10個の雄しべがあり、ゾウの鼻のように長い雌しべを伸ばします。冷涼な気候を好み、本州中部以北の東アジアに生え、亜高山帯の林縁などに自生します。

一方、低山にはイチヤクソウPyrola japnica(ピローラ ジャポニカ)ツツジ科イチヤクソウ属が生えます。日本を含む東アジアに自生する小型の多年草で、やや明るい落葉樹林の林床などに自生します。写真の株は岩手県のクロマツ海岸林に生えていましたが、葉が松葉の落ち葉に隠れているものばかりで、この植物には葉はあまり重要でないのかもしれません。

イチヤクソウがツツジ科といわれてもなかなか納得できないかも知れません。このイチヤクソウ属がツツジ科になった証拠をお見せします。左がイチヤクソウ、右がシャクナゲです。生殖器官の類異性がお分かりいただけるものと思います。イチヤクソウ属はウメガサソウ属と同じように、光合成をしながら、樹木と共生関係を結ぶ菌根菌から栄養を分けてもらうよう進化しました。

アカバナイチヤクソウは、深山の宝石のようにきれいな色をしています。雄しべがおよそ10本、にゅと突き出した雌しべが特徴です。

クモが足を広げたような妙な花を付けるイカリソウは、一度見たら忘れることはないと思います。関東ではピンク色のイカリソウが生えますが、ここでは寒冷な気候を好むキバナイカリソウEpimedium koreanum(エピメディーム コレアナヌム)メギ科イカリソウ属が生えます。

3枚の小葉が3つ付くことを2~3回繰り返す二回三出複葉という葉の形が特徴です。葉の下にクモのような奇妙な花を下向きに付けるのがイカリソウ属の特徴です。4枚の花弁から長い距という突起物を出し、蜜をためます。その姿がいかりに似ているのです。右写真はイカリソウEpimedium grandiflorum(エピメディーム グランディフローラム)メギ科 イカリソウ属。種形容語のgrandiflorumは大きな花を意味します。どちらかというと暖地型のイカリソウといえます。左写真のキバナイカリソウは、日本海側の積雪地帯などに生える寒地型のイカリソウです。種形容語のkoreanumは高麗を意味し、日本のほか朝鮮半島などに生えます。山から冷風が噴き出す、特異な環境に生える中山風穴植物群は地球環境の変遷を今に伝えています。

次回は「主に夏に開花期を迎える、アサガオ、サツマイモなどのヒルガオ科の植物の話」です。お楽しみに。

JADMA

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