小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
猿桃[前編] マタタビ属
2017/09/26
毛の生えたおいなりさんみたいな形のキウイフルーツ。大きなものでは、おにぎりぐらいの大きさがあります。色形がニュージーランドの国鳥のキウイに似ていて、英語のシールが貼ってあるので、どこか遠い異国の雰囲気を醸し出しています。しかし、この植物は私たちの住む、東アジアに生えるマタタビ科マタタビ属の中から育成されたもので、ニュージーランドに元々生えていた植物ではありません。
世界では、たびたび原生地で重要視されない植物が、他国で品種改良が進み、産業化されていることがあります。北アメリカ原生の草原に生えるリンドウ科であるトルコギキョウが、主に日本で改良が進み、産業化されていることに似ています。原生地と原産地は、必ずしも一緒ではありません。
原生地:その植物が自生している地域
原産地:その植物を産業化した地域
と覚えておきましょう。
輸入されたキウイフルーツは、中国で獼猴桃(びこうとう)と呼ばれるオニマタタビなどをニュージーランドで品種改良して、作物に変えたものです。獼猴桃とは和訳すると「猿桃(さるのもも)」です。
オニマタタビActinidia chinensis(アクティニディア シネンシス)マタタビ科マタタビ属。中国語名は獼猴桃。この植物、もしくは近縁の種がキウイフルーツの育種に使われました。果実の大きさは卓球の球ぐらいです。中国の長江流域に原生するとされています。
日本にもキウイフルーツに似た植物の自生はあります。サルナシActinidia arguta(アクティニディア アルグタ)マタタビ科マタタビ属。種形容語のargutaとは鋭い歯、とがった様子を表します。サルナシの葉の縁に鋭い鋸歯があるのです。日本および東アジアに自生しています。中国では「猿桃」といい、日本では「猿梨」です。山地において動物たちの重要な食料になっています。
サルナシは小さなキウイです。英語でbaby kiwi(ベビーキウイ)とかkiwi berry(キウイベリー)といいます。本当に味と形はキウイの赤ちゃんです。日本でもサルナシを元に作物化の育種をすれば立派な果物になったことでしょう。
マタタビ属Actinidiaは日本に4種、数十種が東アジアに産する植物です。マタタビActinidia polygama(アクティニディア ポリガマ)マタタビ科マタタビ属は東アジアの山地に産する、つる性の落葉樹です。普段は全く目立つことがなく、夏以外に遠目でこの植物を見つけることは難しいでしょう。そこで花を咲かせる夏の時期に、マタタビは授粉昆虫たちに「私はここにいるのよ」と精一杯のおめかしをします。
夏の山地では至るところに葉が白く色づいたマタタビの姿を見ることができます。マタタビの種形容語のpolygamaとは、雑居性の花という意味を持ちます。マタタビは雌雄異株ですが雌株、雄株、両性花を持つ株など多様な性を持っているからです。
マタタビの両性花です。どの植物も花粉が雨にぬれないように工夫するのですが、マタタビは大きな葉を傘代わりにして花を守ります。そうすると葉に隠れた花は目立たないので、訪花昆虫に自分の存在をアピールするために、開花時期に葉を白くすると考えられます。
マタタビの花が見事なお化粧をしました。花が咲いている時期だけ白くなり、やがて元の緑の葉に戻るのです。マタタビは花の代わりに葉を白く着飾り、花の存在を周りに伝えます。
開花時期に葉を白くして花の存在を訪花昆虫に教えるシステムは、マタタビだけの専売特許ではありません。ハンゲショウSaururus chinensis(サウルラス シネンシス)ドクダミ科ハンゲショウ属は、ドクダミに似た、湿地に生える宿根草です。この植物も花が咲く時期に葉を白く染めます。
ハンゲショウの属名Saururusは何やら恐竜の名前のようです。それはトカゲの尻尾という意味で、花弁のない花序の姿を表します。種形容語chinensisは中国産という意味ですが、立派に日本にも自生があることから、その昔日本列島が中国とつながっていたことを教えてくれます。夏に葉の先端部分1~2枚が白く見えるのでよく目立ち、訪花昆虫がいました。
次回は「猿桃[後編] マタタビ」です。お楽しみに。