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連載

逢魔が時[前編] カラスウリ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

逢魔が時[前編] カラスウリ

2017/10/10

「お疲れさまでした」と一日の疲れを引きずり、人々が家路に急ぎます。子どもたちがおなかをすかせて母さん、父さんが帰ってくるのを待っています。家々に明かりがともるころ、身近なやぶではカラスウリが香水を振りまき、妖しげに白いレース飾りの花を今年も咲かせました。

午後6時52分、やぶ蚊に刺されながら、カラスウリが花を咲かせるのを待っていました。たそがれどきは夜と昼との交差点です。昼の人々と闇の住人が出会う時間。人がこの世のものではないものに会うときとされ、逢魔が時(おうまがとき)ともいわれます。子どもたちは早く家に帰りましょう。

カラスウリ(烏瓜)Trichosanthes cucumeroides(トリコサンセス ククメロイデス)ウリ科カラスウリ属は、身近なやぶや林縁に生えるのでなじみの深い植物ですが、世界的には東アジアの日本と中国に自生する特異なウリです。属名のTrichosanthesとは糸の花という意味です。

カラスウリTrichosanthes cucumeroidesの形容語のcucumeroidesはキュウリ属に似ているという意味です。葉は細かい毛で覆われ、灰色がかった緑色をしていますが、確かにキュウリに似た葉をしています。

カラスウリは熱帯夜が続くころ、身近なやぶや木に絡み付き、一夜限りのこの世のものとは思えない妖しげな花を咲かせます。5枚の花弁の先が糸状に解け、後ろに反り返りながらよい香りを振りまき、クモの巣のように四方八方に糸のような花を展開するのです。それは暗闇の住人たちに対する強烈なデモンストレーションとして機能します。

カラスウリの花は長い漏斗状花です。ごちそうの花の蜜は付け根にあるので、長い口吻(こうふん)を持った夜行性のガであるスズメガ類を、カラスウリは花粉媒介者として選びました。カラスウリはスズメガのいない環境では、子孫を残すことができません。

カラスウリは雌雄異株です。雌株には雌花しか咲かせません。観察すると雌株は少なく、たいがい雄株と雌株が離れて自生しているように見えます。雄花が1つの花茎に群がって咲くのに対し、雌花は1つの花茎に1つの花しか咲かせません。オスは下手な鉄砲も数撃てば当たると考えているようですが、メスは繁殖の負担があまりにも大きいのでしょう。1花茎に1つの花を付けるようです。

カラスウリの雌花には子房があるので、基部が膨らんでいます。雌花には雌しべしかなく、雄花に比べて造作が地味にできています。

雄花で花の蜜を吸ったスズメガが、雌花の蜜を吸うと受粉が成立する仕組みです。果実の長さは5~6cm程度です。イノシシの子どもはウリボウといいます。カラスウリのしま模様によく似た模様をしています。

果実は10~11月になると熟してオレンジ色になります。カラスウリの実は食材には適しませんが、日本の里において秋のシンボルのように思います。生け花などオーナメントにも使います。

次回は「逢魔が時[後編] カラスウリ」です。お楽しみに。

JADMA

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