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逢魔が時[後編] カラスウリ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

逢魔が時[後編] カラスウリ

2017/10/17

カラスウリの花は一夜限りですが、近縁種のキカラスウリの花はもう少しく長く咲いています。昼間に花を咲かせるカラスウリの仲間もいます。メロンのような実を付けるカラスウリや、サツマイモみたいな塊根をつくるカラスウリもあります。多様なTrichosanthes (トリコサンセス)属の横顔をのぞいてみましょう。

カラスウリの花は見れば見るほど変わっています。花弁は糸の部分を含めると直径10cmに及ぶ大輪です。カラスウリは一夜限りの花で、夜に活動する虫を引き付けるのです。

こちらはキカラスウリです。カラスウリより大型で、花は翌日の午前中ぐらいまで咲いています。キカラスウリTrichosanthes kirilowii var. japonica(トリコサンセス キリローウィ 変種 ジャポニカ)ウリ科カラスウリ属。種形容語のkirilowiiは人名に由来します。キカラスウリはカラスウリ同様の雌雄異株で、実が黄色に熟すことによる命名です。中国に原生するシナカラスウリを母種とする、日本の変種とされて日本の特産種です。カラスウリと違い、葉に毛が生えていないのが特徴です。

シナカラスウリTrichosanthes kirilowii(トリコサンセス キリロ-ウィ)ウリ科カラスウリ属。別名をトウカラスウリともいいます。朝鮮半島から中国、ベトナムなどに分布します。葉は細かく裂け、つるつるで毛はありません。中国の山東省の畑にごろごろと転がっていました。実などは中医薬に使われるので雑草だったのか、栽培をしていたのか不明です。

オオカラスウリを探してあっちこっちを歩き回り、薬科大学で見つけたのがこの葉です。自生地では雑草ですが、ないところにはありません。オオカラスウリTrichosanthes bracteata(トリコサンセス ブラクテアタ)ウリ科カラスウリ属。日本の四国から南の地域、インドまでの地域に自生するといいます。

ヘビウリTrichosanthes cucumerina(トリコサンセス ククメリナ)ウリ科カラスウリ属。種形容語のcucumerinaはキュウリみたいなという意味です。英語ではSnake gourdといいます。漢字で蛇瓜です。学名はカラスウリTrichosanthes cucumeroidesと似ているので注意してください。中国広西チワン族自治区からインドにまで自生が見られると文献にあります。熱帯では野菜として若い実を食べるのですが、見た目と食感が私の口に合いません。熟すと実が黄色からオレンジ色になる、不気味なカラスウリ属です。花は夜にではなく、昼間に咲きます。

カラスウリの仲間は熱帯・亜熱帯が起源とされ、温帯域では冬の寒さで枯れ、塊根の状態で冬を越す、つる性の宿根草もあります。5~6月に塊根や落ちたタネから芽を出し、5m程度のつるを伸ばします。伸びたつるの先が地面に着くと、そこから根を出します。

カラスウリの根を掘ってみると、植物体の割に意外と大きなイモがごろりと出てきてびっくりしました。イモを切ってみましたが、繊維分が多く、そのまま料理に利用できそうにありません。

しかしこのような栄養の塊を、昔の人が利用しないことが考えられないので調べてみました。すると驚いたことに、子どものころ、お風呂から出るとつけられた天花粉(ベビーパウダー)がカラスウリ類の塊茎から作られるというのです。このイモをすって、水でこし沈殿したでんぷんは、サラサラで確かにベビーパウダーの感触でした。

沖縄県北部のやぶにオキナワスズメウリを見つけました。オキナワスズメウリDiplocyclos palmatus(ディプロシクロス パルマツス)ウリ科オキナワスズメウリ属。種形容語のpalmatusは手のひらのような葉を表します。緑のしま模様の若い実は赤く熟すので、カラスウリの仲間に見えますが別の属です。カラスウリはおいしくありませんが、食べる人がいます。しかしオキナワスズメウリは見て楽しむだけにしてください。この植物は毒草とされています。

東アジアのやぶに生えているカラスウリ。やぶ蚊に刺されながらもカラスウリを探して右往左往しました。なんだか急にカラスウリたちと仲良くなった気がします。知っているようで知らないカラスウリのこと。身近な植物を掘り下げてみる楽しさを知りました。

次回は「野生のスイートピー[前編] レンリソウ属」です。お楽しみに。

JADMA

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