小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
カエルのすみか ラナンキュラス
2017/11/14
キンポウゲ属Ranunculusは、水が好きで、水辺もしくは水中に暮らしているという話はバイカモやイトキンポウゲをご紹介した回でお話ししました。この他にも東アジアには多様なキンポウゲ属が自生しています。もう少しキンポウゲ属Ranunculusの話を続けます。ギリシャ語でRanaはカエルのこと。Ranunculusの属名は、この植物がカエルのいそうな場所に生えるという意味を持ちます。誰でもRanunculusというと早春の園芸店に並ぶラナンキュラス(花金鳳花)のことを思い浮かべるでしょう。
ラナンキュラスRanunculus asiaticus(ラナンキュラス アジアティクス)キンポウゲ科 キンポウゲ属。種形容語のasiaticusとはアジアのことですが、この植物は東アジアに生えているわけではなく、南西アジアに自生する種から改良された園芸種です。野生のキンポウゲ属の花弁は5枚ですが、園芸種はよりわい性に美しく改良され、花弁が何枚あるか分からないほどの万重咲きです。写真は野生種ではありませんが、シューアンシングルと呼ばれる花弁の重ねの薄い品種です。
サカタのタネは半世紀前からこの植物の改良に着手し、夏にタネをまいて翌年の春から開花する園芸植物に改良してきました。園芸種のラナンキュラスは、サカタのタネによってタネから育てる園芸植物になったといっても過言ではありません。
元々、カエルにちなむ属名を持つラナンキュラスですが、東アジアにはカエルの傘と名の付くラナンキュラスが自生しています。ヒキノカサRanunculus ternatus(ラナンキュラス テルナツス)キンポウゲ科キンポウゲ属。種形容語は、葉が3裂していることによります。日本の関東以西から朝鮮半島、中国に生える小さなキンポウゲです。
花の大きさは8mmくらい、背丈は5cmくらいで葉を根出させます。この植物は氾濫原などの湿地原野などに生えますが、デリケートで農耕や開発などですみかを荒らされるとたちまち姿を消してしまいます。河川改修が進んだ現代では絶滅危惧種です。
ヒキノカサは漢字で蟇(ひき)の傘と書きます。ヒキガエルの傘という意味だと思いますが、花の大きさは1cmに満たないので、この花を傘にして似合うのはアマガエルぐらいしかいません。アマガエルも見なくなりました。このヒキノカサもめったに見ることのできない、希少なラナンキュラスの一つです。
一方、ウマノアシガタと呼ばれるRanunculus japonicusは、日本各地で見ることができます。この植物は東アジアに広く自生します。
ウマノアシガタRanunculus japonicus(ラナンキュラス ジャポニクス)キンポウゲ科キンポウゲ属。種形容語のjaponicusの意味はお分わりだと思います。ウマノアシガタは英語でjapanese buttercupと呼ばれます。花弁が油を塗ったようにテカテカに光っているからです。
ウマノアシガタという和名は、葉が馬の足跡の形だからというのですが似ていません。鳥の足形なら賛同できます。
キンポウゲRanunculus japonicus f.pleniflorus(ラナンキュラス ジャポニクス 変種 ペレニフロルス)キンポウゲ科キンポウゲ属。漢字で金鳳花(キンポウゲ)と書きます。黄金をした鳳凰(ほうおう)の花とは大変ゴージャスな名前ですが、植物的にはウマノアシガタと同種です。
キンポウゲRanunculus japonicus f.pleniflorusの変種としての簡略表記f.の後の意味は、たくさんの花、八重咲きであるという意味です。実はウマノアシガタの八重咲き変種を金鳳花というらしいのです。自然界ではたくさんの実生からのさまざまな変種が生まれます。雄しべ、雌しべが花弁に変わり、八重咲きになったりもします。そのような変異を目ざとく見つけて観賞用にしたのが園芸植物の始まりです。
写真は春の田んぼの雑草である、ケキツネノボタンです。この植物もラナンキュラスの仲間です。身の回りの里や山野にカエルのいそうな場所を探してみましょう。春になると花弁がつやつやのラナンキュラスの仲間が見つかるはずです。
次回は「樟 or 楠[前編] クスノキとタブノキ」です。お楽しみに。