小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
海石榴[その2] 大陸のツバキ属とヤブツバキ
2017/12/26
ツバキ(Camellia)属は、東アジアの熱帯、亜熱帯地域を本拠地にする暖地性常緑の低木です。この植物群は、熱帯収束帯と偏西風、そして、ヒマラヤ山脈がもたらす、豊富な雨量の下に発達する照葉樹林帯に自生し、長江以南の暖かい地域を自生の中心とします。多くの種は白花の小さなサザンカのような風貌ですが、花の美しい種も少なくありません。
中国とラオス国境にある景万山に咲く花は、チャ(茶)Camellia sinensis(カメリア シネンシス)ツバキ科ツバキ属です。
シーボルトは、ツバキ科の植物ほど人類にとって高い重要性を獲得した植物は他にないと述べています。確かにチャについて考えた場合、あながち間違いとはいえない見解だと思います。
ツバキ(Camellia)の属名は、現在のチェコ生まれのイエズス会宣教師で、フィリピンの植物情報をヨーロッパにもたらしたGeorg Joseph Kamel (ゲオルク ヨーゼフ カメル)にちなみリンネが命名しました。Kamelの収集品にCamellia属のタネが含まれていたのでした。
こちらは、長江下流域の山斜面に自生するシラハトツバキCamellia fraterna(カメリア フラテルナ)ツバキ科ツバキ属です。香りを持つ白花を付けます。やや花弁は外側に開き、花の大きさは4~5cmくらい、開花期は2~3月です。多花性で横に広がる低木です。
シラハトツバキCamellia fraterna。葉は互生で5cmくらいの長さがあり、先が尖ります。ラテン語で兄弟のことをfraterといいます。種形容語は、1カ所から2つの花が仲良く咲く、形態に由来します。
こちらは、沖縄北部等に自生するヒメサザンカです。シラハトツバキに似ていて、花は冬に咲き、同じような白色でだいぶ小ぶりです。特に香りがよいので、香りツバキの作出親として使われます。
ヒメサザンカCamellia luchuensis(カメリア ルチュエンシス)ツバキ科ツバキ属。種形容語luchuensisは、琉球を表します。
雲南紅花油茶Camellia reticulata(カメリア レティクラータ)ツバキ科ツバキ属。サザンカのような細かい鋸歯を持ち、小さな細い葉です。果実は球形で茶色の毛が密生しています。中国雲南省の大理、昆明、楚雄などに自生します。
雲南紅花油茶は、日本ではトウツバキとも呼ばれ、ヤブツバキに近縁で、雑種ができる美しい中国のツバキです。
この油茶の林に入り、木を眺めていると、油茶の実が頭にコツンと当たりました。見上げると、この動物たちが盛んにタネを食べて果皮だけを落とすのでした。カメリア属のタネは油を採るだけでなく、野生動物の食料でもありました。
中国南方の辺境では、いろいろな油茶と呼ばれるツバキ属のタネから油を採っていました。しかし、長安、洛陽の都から距離的にも遠く、海を隔てた日本より往来の難しい南蛮と呼ばれる地域だったのです。
歴史上、中国の王朝に南方の油茶が知られる前に、日本からの朝貢品であるヤブツバキの油が彼らの知見に入り、海石榴といわれたと考えられています。
写真は、カメリア ユンナンエンシスCamellia yunnanensisツバキ科ツバキ属の実です。種形容語は、雲南を表します。茎に茶色の毛が密生する低木です。このタネからも油が採れます。
中国のツバキ属は、茶としての飲料、油としての燃料、食料、美容、薬用、祭事、観賞用など多岐にわたり人々の生活に関わってきました。
ツバキ属の自生地の中心には、まだ未開発の地も多く、知られていないツバキ属があるのではないかと期待されています。この植物は、つい最近1986年に見いだされた新種です。
アザレアツバキCamellia changii(カメリア チャンギー)ツバキ科ツバキ属は、中国広東省のごく狭い地域に自生し、わずかな株しか確認されていません。詳細な自生地情報は種保存のため未公開とされています。
このツバキは、8cm程度の細長く光沢のある全縁の葉を有し、花径10cm程度の細い花弁と朱色の花色が特徴です。
そして何よりも、夏から秋の長期間花を咲かせる性質があるのです。それは、冬に花を咲かせる一般のツバキとは真逆の花期で、交配によって四季咲きのツバキが作出される可能性を秘めているのです。
多様性のある大陸のツバキ属ですが、日本を代表するツバキであるヤブツバキの仲間には、大陸のツバキ属にはない、特別な性質があります。
その話は、次週でお話します。
次回は「海石榴[その3] ヤブツバキ」です。お楽しみに。