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食香バラ(R)[その3] 謎を秘める玫瑰(メイクイ)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

食香バラ(R)[その3] 謎を秘める玫瑰(メイクイ)

2018/02/13

バラの村(玫瑰鎮)で栽培されているバラは、香料、薬用や食用にするバラで、観賞用のモダンローズではありません。では、そのバラはどのような種類のバラでしょうか? 話は少々複雑です。まず、中国ではバラを三つに区別します。

1、月季(ゲッキ)

2、薔薇(ソウビ)

3、玫瑰(メイクイ)です。

まず、月季(ゲッキ)ですが、元々はローザ シネンシスRosa chinensisのことを指します。四季咲きで何度も開花するからです。このローザ シネンシスが交配され、四季咲きの形質を獲得したモダンローズのことも月季と呼ばれます。食香バラは、月季ではありません。

次に薔薇(ソウビ)です。薔(ソウ)は枝が細く伸びるさまを表します。薇は、ワラビのことです。先端が丸まるさまを表しますので、中国ではテリハノイバラなどつるバラのことを薔薇(ソウビ)というのです。同じように食香バラのカテゴリーではありません。

次に玫瑰(メイクイ)です。玫は赤く美しいこと、瑰はきれいな玉や塊を意味します。中国では、ハマナシのことを玫瑰といいます。ハマナシ(ハマナス)Rosa rugosa(ローザ ルゴーサ)バラ科バラ属。種形容語のrugosaは、葉が縮んでしわがあることを意味します。ハマナシは、東アジアの温帯から寒帯の海岸に生えるバラです。

山東省玫瑰鎮で作られている食香バラである玫瑰は分類的に、ハマナシ節(ハマナシのグループ)であることは、形態的に見て明らかです。しかし、ある研究者は、それをハマナシRosa rugosa(ローザ ルゴサ)であるといい、中国産の野生種から改良されたローザ マイカイRosa maikwai(ローザ メイクイ)であるともいい、もっと研究しないと分からないともいいます。山東省平陰県玫瑰鎮で作られる食香バラは、唐の時代から生産が始まり、人の手によって改良されてきたものに間違いはないのですが、この植物の元になった野生種が何なのかは謎なのです。

中国で唯一存在するバラ研究所が、玫瑰鎮にあります。所長は、野生の玫瑰があるといいます。機会をつくり野生種を探索しようということになっています。海から遠く離れたこの地に、ハマナシ節の自生があるのだとしたら、それは、間違いなくローザ マイカイRosa maikwaiに違いありません。

さて、玫瑰鎮で生産されている玫瑰はいくつかあります。上から、白玫瑰、恵農1号、紫枝(ズズ)、豊華(ホウカ)という品種です。中でも紫枝と豊華は、特に香りがよく、食用にも向く品種なので、日本では食香バラと呼びます。

左側の紫枝は、枝が赤紫で花は大きく径7cm程度、八重咲きです。ブルガリアローズにレモンの風味を加えたような爽やかな香りです。強健で四季咲きの性質が強いバラです。右側の豊華は、花の大きさは径6cm程度、八重咲き性が高く花弁数が多いバラで、フルーティーな甘い香りが特に強く、玫瑰鎮の主力品種です。春の一季咲きで、性質はやや気難しいところがありますが、問題なく栽培できます。花つきが素晴らしく、芳香も一番強いおすすめ品種です。

両方とも病気に強く作りやすいバラといえます。

香料、薬用、食材両用のバラは、中国の平陰県以外でも、それぞれの地域に栽培が広がり、さまざまに栽培される玫瑰(メイクイ)があります。
写真は、甘粛省の苦水玫瑰と呼ばれているバラです。かなり系統の違う種のようで香りはあまりしませんでした。

こちらは、北京妙峰山玫瑰(ペキンミョウホウサンメイクイ)と呼ばれるバラです。

保加利亜紅玫瑰(ブルガリアベニメイクイ)。こちらは、ローザ ダマスケナRosa×damascenaです。ハマナシ節ではないバラに玫瑰の字を当てるのは間違いなのですが、玫瑰の呼称は混乱しています。各地域で作られる玫瑰は、種の系統が違うものであったり、香りが違い、花弁の食味も違う別物です。

現在の中国語では、玫瑰(メイクイ)の呼称は、単にバラを指す場合が増えています。日本語だけでなく、中国語も簡略化される傾向にあるといえます。バラは中国でも人気です。本屋には玫瑰の漫画があり、かわいい子犬を玫瑰色に染めたりしていました。虐待なのか、愛玩なのか微妙ですが、飼い主はこの子犬を100元で染めてもらったそうです。

中国にはさまざまなバラがあり、玫瑰と呼ばれるバラもさまざまなのです。しかし、食用バラとして政府が唯一認定しているのは、平陰県の玫瑰、食香バラだけです。写真は、食香バラ 豊華です。多花性で重弁、強い芳香を持ちます。

次回は「食香バラ(R)[その4] 玫瑰(メイクイ)を科学する」では、食香バラに科学的アプローチをして謎の多いその由来に迫りたいと思います。お楽しみに。

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