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紫の一族[前編] ムラサキ科

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

紫の一族[前編] ムラサキ科

2018/05/22

ムラサキ科の植物は、世界中に2000種あるといわれる大家族です。おそらく、全てのムラサキ属に出合うことはかなわないと思いますが、今まで出合いのあったムラサキ科の仲間を紹介していきたいと思います。春から夏にかけて東アジアの山地や海岸では多くのムラサキ科の仲間を見ることができます。ムラサキ科の植物には、ワスレナグサなどよく知られた草花があり、花の付き方が独特で慣れてくると、咲いている花の名前は分からなくてもムラサキ科の植物であることが分かります。

ムラサキ科というと紫色、青い色をしている感覚を持ちますが、必ずしも花の色にちなむ科名ではありません。最大の特徴は、花弁が5枚あり、全体に細かい毛が生えていて、花や蕾が渦巻き状に付き、巻散花序といわれる花の付き方をすることだと思います。写真は、園芸種のワスレナグサ「ブルームッツ」で、切り花用のワスレナグサMyosotis(ミオソティス)属です。この品種は、株が30cmくらいに広がり、丈は50cmほどに伸びます。そして1株で30本以上もの切り花が採れる優れものです。

ムラサキ科の当主ムラサキの花は紫や青ではありません。ムラサキという植物の名は、花の色ではなくこの植物の根が太く、赤紫色をしていることによります。シコニンという紫色の色素を根に含むのです。古くから野に生えるムラサキは採取され、根を薬用や衣服の染料に使ってきました。

ムラサキLithospermum erythrorhizonムラサキ科ムラサキ属。種形容語のerythrorhizonは、発音はよく分かりませんが赤い根という意味です。 

ムラサキは、初夏に淡い黄色みを帯びた小さな花を付けます。大きさは4mmほどあり、5枚の花びらが合わさって中央に小さな花冠を作ります。日本全土の山地の草地に生える植物ですが、山地の草原が森に変遷していくこと、古くから人によって採取利用されてきたことにより、ムラサキを見つけることは至難の技です。今ではこの植物は、全国的な絶滅危惧種になってしまいました。

写真の植物は、中国の山地で見つけたイヌムラサキLithospermum arvense(リソスペルマム アルベンセ)ムラサキ科ムラサキ属。種形容語のarvenseは、原野とか耕地という意味ですから、この場合は原野と訳すのが妥当です。イヌムラサキはムラサキに比べさらに小さく3mmほどしかなく、蕾や葉茎が多毛です。日本はもとより東アジアの乾いた草地に広く原生する植物ですが、根に色素を含まないため、薬用や染料に利用しません。

やっと、ムラサキ科らしいきれいな青い花を付ける、ムラサキ属の登場です。ホタルカズラLithospermum zollingeriムラサキ科ムラサキ属。種形容語のzollingeriとは、スイスの植物学者Heinrich Zollingerハインリッヒ ツオリンガーにちなみます。北海道、本州、四国、九州をはじめ東アジア各地の日当たりのよい草地に自生する宿根草です。横浜の自宅周辺を散歩すると見られるほど、身近な植物です。

ホタルカズラは、青い花の中心に星形の白いマークが入ります。花の大きさはムラサキ科の中では大きく1.5cmほどあります。長いほふく枝を出し、その先端に根を出し次の年の株を作り生活していきます。その形態は、ツタやカズラのようで野育ちのおおらかな姿で生育します。花がきれいなのですが、鉢に収まらない草姿なのです。

園芸植物化された植物にリソドラ ディフューサLithodora diffusaムラサキ科リソドラ属という植物があります。ドレミファリソドラと覚えると忘れない名前です。属名のLithodoraは、litho(岩石)+odora(よい香り)のことなので、岩場に生える植物という意味だと思います。種形容語のdiffusaとは散開したという意味ですが、ホタルカズラに比べ節の間が詰まっていて、コンパクトにまとまるので鉢植えとして楽しむことができます。

リソドラ ディフューサLithodora diffusaは、通称名がミヤマホタルカズラ(深山蛍かずら)と呼ばれている場合があります。いかにも、深山に生えるホタルカズラのような草姿ですが、欧州のスペインやポルトガルの海岸が原生とされる植物ですのでミヤマホタルカズラという名前は、深い山に生える山草に付けるものなので、この外国種に付ける名称としてはいかがなものかと思います。



お詫びと訂正

2018年5月22日公開の『東アジア植物記 紫の一族[前編] ムラサキ科』の記事中の写真に誤りがありました。読者の皆さま、ならびに関係者の皆さまに、ご迷惑をおかけしましたことをお詫びするとともに、ここに訂正させていただきます。
2枚目および3枚目
誤)「セイヨウムラサキ」
正)「ムラサキ」

最終更新日:2024/09/10

次回は「紫の一族[中編] ムラサキ科」です。Omphalodesオンファロデス)ムラサキ科ルリソウ属の仲間をご紹介します。お楽しみに。

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