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紫の一族[中編] ムラサキ科

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

紫の一族[中編] ムラサキ科

2018/06/05

透き通るような青色、いろいろな花色の中でも青い色は、特に目立ちます。空が青い理由、海が青い訳は、青色という光が持つ特殊な性質によるものです。青色は、波長が短く強いエネルギーを持っています。ムラサキ科の中でもルリソウ属は、ゾクッとするような青い花を咲かせ虫たちや人間にアピールします。ルリソウ属は、主にユーラシア大陸に自生し、日本にも少数の種があります。

東アジアに生えるルリソウ属ではありませんが、ルリソウというと、オンファロデス ベルナOmphalodes vernaという植物がよく知られています。この植物は寒冷な気候を好みます。アンデルセンの生家があるデンマークのオーデンセに流れる川の両側にたくさん植えられていて目の覚めるような景色でした。

デンマークの首都コペンハーゲンから電車で1.5時間ほど、フュン島にあるオーデンセは童話で有名なアンデルセンの故郷です。アンデルセンの生家とされる家が残っていました。アンデルセンの父親は貧しい靴職人。母親は働き者で町の人の汚れ物を預かり近くの川で洗濯をする洗濯婦でした。その時代デンマークの国情はよくありませんでした。

幼いアンデルセンは、母親にべったり、毎日川で洗濯をしている母の背中を見て遊んだといわれます。洗濯機のない時代、冷たい北欧の川での洗濯は重労働であったに違いありません。

オーデンセ川には、水鳥がたくさんいました。幼いアンデルセンは、よく水鳥を眺めたのだと思います。そして、その経験が「みにくいアヒルの子」という童話を生んだに違いありません。「マッチ売りの少女」や「人魚姫」など、幸薄い物語の背景には、暗い冬が長く続くオーデンセでの実生活があったのだと思います。

日長の短い冬を過ごす北欧の生活でも、夏になると日が長く快適な気候になります。町の市で人々は花苗を買い求め自宅に植え園芸を楽しみます。

その植物の中で、最も目を引いたのがオンファロデスでした。オンファロデス ベルナOmphalodes vernaムラサキ科ルリソウ属。中央ヨーロッパのブナ林などの下草として原生します。冷涼な気候を好み、日本では北海道など冷涼な地域で楽しめる宿根草です。透き通るような青い花が魅力的な植物。この花が群れて咲いている景色は寒冷地に住む方々への贈り物だと思います。

日本にも、ルリソウ属は、わずかですが分布しています。ヤマルリソウOmphalodes japonicaオンファロデス ジャポニカ)ムラサキ科ルリソウ属などです。ヤマルリソウは、初夏に山地の林が途切れる林縁などで見ることがあります。

ヤマルリソウは、東北南部以西の山地に生えますが、日本でしか見ることができない固有種です。うっそうとした林の途切れた半日陰地で土が湿っているところがお好みです。属名のOmphalodesは果実がへそ状にへこむことにちなみ、種形容語japonicaは、日本産を表します。

ヤマルリソウの花は、空色にホワイトのドット(斑点)が中心に位置したキュートな姿をしています。花の大きさは、1cmほど、花序の先にポッンポッンと付けます。中央の花弁の合わさった部分が花冠となって盛り上がり雄しべと雌しべが格納されています。

ヤマルリソウの茎葉には、白い毛がうっすらと生えていて、株はロゼット状、地を這うように生えます。茎が倒伏し、自由気ままに四方に広がります。その姿は、あまりに野育ちで洗練されていません。コンパクトさを要求される園芸植物としての規格に合わないのでお店で見ることはありません。ヤマルリソウは、きれいな花なので初夏、山地に足を運んで見てみましょう。

次回は「紫の一族[後編] ムラサキ科」です。お楽しみに。

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