小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
Plant of Kunming [その1] 含笑 前編
2018/06/19
植物の宝庫である東アジアにおいて、特に中国雲南省の植物の豊富さは、世界的に知られています。
雲南省は、中国の中では雨量も多く木々がよく茂ります。日本より若干広い面積を持ち、その84%が山岳地帯です。標高が76.4~6740mの高低差を持つ高原状の斜面というお国柄です。全体的には、低緯度の亜熱帯地域なのですが、標高差によってさまざまな気候が存在します。高い山、深い谷があり急峻な地形であり、植物たちが人による大規模な開発や地球環境の変動からも免れ暮らしています。
この地の麗江、香格里拉(シャングリラ) や西双版納(シーサンパンナ)などには、古くはプラントハンターが、そして、今でも植物学者が訪れ調査が行われています。そんな有名な場所では、そこに原生するさまざまな植物の書籍が出版されているのですが、雲南省の省都である大都会、昆明のお膝元に生える植物に関しての紹介は見かけません。2018年の新企画として、昆明の街もしくは、周辺の植物たちの話題を提供していきます。
雲南省都の昆明を日本語ではコンメイといいますが、中国語ではKūnmíngといいます。標高1900m程度の高原に位置し、亜熱帯地域にありながら、夏でもクーラーは必要ありません。冬でも降霜や降雪がめったにない常春の国であり、春城と呼ばれます。まずは、昆明から50km程度南西に行った雑木林で見かけた含笑と呼ばれる植物のお話から始まります。
今、中国では食香バラがちょっとしたブームです。よい香りは、舌で味わうのが彼らの流儀です。昆明近郊の山林を開墾した雲南省の疎林や針葉樹の林を歩いてみました。
長江以南の中国南部は、雨量も比較的多く、照葉樹林も発達していて、日本の関東から南部に生える植物と共通もしくは類似しているので、日本の植物がある程度分かれば、植物鑑定は難しくありません。それでも、地歴の古い大陸には、日本に分布していない植物も多くあります。
林の中で、よい香りを放つ白い花を見つけました。花と蕾は、モクレンのようです。葉は互生照葉で硬く常緑です。花は各葉腋に一つ付けていました。この植物は、雲南含笑と呼ばれます。なるほど、蕾がほころび、咲き始めたその姿は、口元がわずかに緩み恥じらいながらフ、フ、フッとほほ笑むように見えます。それは、絶妙なネーミングだと思います。
雲南含笑(Yúnnán hánxiào)Michelia yunnanensis(ミケリア ユンナネンシス)モクレン科オガタマノキ属。和名は、ウンナンオガタマノキといいます。花はアイボリー色で、大きさは約4cm、花被片はおよそ6枚くらい、雌しべ1本、雄しべ多数の陣容です。属名は、イタリアの神父であり植物学者のPier Antonio Micheli(ピエール・アントニオ・ミケーリ)に献名されています。種形容語のyunnanensisは、雲南を意味し、雲南には広く分布していますが、この地域固有の種です。
花が終わるとコブシみたいな果実を付けます。この果実を集合果といいます。よい香りで虫たちを呼び寄せるので、受精状況は良好のようです。秋に赤く熟し大きなタネを付けます。
Michelia属は、常緑でモクレンに近縁です。この雲南含笑の最大の特徴は、冬芽や枝先に赤い柔毛が密生していて、動物の毛皮みたいに見えることです。
拡大してみましょう。今年の花が咲き終わって、来年の花芽が用意されています。その柔毛の生え方がおかしく動物の毛みたいに見えます。昆明は、一年中春の国といわれますが、冬はそれなりに寒いのです。ダウンジャケットや革ジャン程度の防寒は必要です。そして、めったにないことですが雪が降ることがあります。雲南含笑は、そのことを織り込み済みなのでしょう。次の年の花芽を温かい毛で覆っています。
Michelia属のことを含笑(含み笑い hánxiào)と表現することは、中国らしい美しい表現だと思います。雲南含笑は、あまり高木にならないので関東から西の方なら露地栽培ができますので、家庭木としてもよいと思います。花が咲いたときの優雅な香りを楽しんでみてください。
次回は「Plant of Kunming [その2] 含笑 後編」です。お楽しみに。