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Plant of Kunming [その2] 含笑 後編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その2] 含笑 後編

2018/06/26

「含笑(含み笑い)」と呼ばれる植物の仲間は、実は日本にも原生があります。それは、Michelia(ミケリア)属の北限分布種に違いありません。この「含笑」はよい香りがして、古くから神社などに植えられ珍重されてきた樹木です。

その木は、太さ1m、高さ10m以上になる常緑の高木です。木肌は緑かがった灰色でどっしりしています。暖地の照葉樹林にまれに生える木ですのであまり目にすることは少ないでしょう。まして、このような大きな木は、鑑定に必要な花や葉は、手の届かない上部にあるため木の種類さえ見定めることが難しいのです。

そんなとき、どうするのでしょうか? 針葉樹の巨木鑑定に球果(マツボックリなど)が役立つように、その木の落とし物を調べます。木の下には、いろいろな情報が落ちているものです。皆さんは、この木が何だか分かりますか? これくらいの物証があれば分かる人もいるはずです。

オガタマノキMichelia compressa(ミケリア コンプレッサ)モクレン科オガタマノキ属。中国名は、台湾含笑(tai wan han xiao)といいます。東アジアでも大陸に原生はなく、日本の暖地から、台湾、フィリピンと黒潮の影響を受ける東アジアの東岸に自生します。半耐寒性の樹木で寒さに弱いため関東以北では栽培は難しいと思います。また、繁殖や栽培も難しい希少樹種の一つとして知られています。

オガタマノキの花は、純白で中心が鮮やかな紅色をしていてとてもきれいです。口紅をさした美しいご婦人を見ているようで気品があり見ほれるようです。種形容語compressaは、圧縮されたという意味。花が平たく上から押し潰されたような形だからです。

花の大きさは3cm程度、花被片は12枚です。オガタマノキは、日本に原生するモクレン科では唯一の常緑種です。葉は全縁で、葉柄があり硬くしっかりしています。

実は集合果で10月に熟し、赤いタネをまいた後で殻を落とします。この殻もこの植物独特のものなので鑑定に役立ちます。オガタマノキの殻は、神道の巫女が持つ神楽鈴に似ているのです。古くからこの木は、神社などに植えられ、サカキのように神前に供え、招霊に使われたと記されています。おそらく神楽鈴は、オガタマノキの果実殻が、そのデザインの参考にされたのではないかと思います。

話は昆明(Kūnmíng)に戻ります、市内には、ミケリア アルバMichelia albaモクレン科オガタマノキ属がたくさん植えられていています。昆明の住宅地には、大規模に樹木の植栽がされていて、朝早く起きると小鳥たちの美しいさえずりが聞こえ、「含笑」の香りが漂ってきます。

住民たちは、朝に夕にミケリア アルバの蕾を採取してひもに通して首飾りにしてその香りを楽しみます。しかし、この仲間の花はどれも短命です。亜熱帯や熱帯では、花粉を媒介する虫は豊富にいます。熱帯の花が一夜限りであったり、短命なのは、花粉を媒介する虫に事欠かない環境だからだと思います。そんなはかないMichelia属の花たちであっても、「含笑」の花は昆明の人たちに、その香りと共に親しまれ愛されているのでした。

次回は「Plant of Kunming [その3] コラロディスクス」です。お楽しみに。

JADMA

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