小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
Plant of Kunming [その6] 楊梅(ヤマモモ)
2018/07/24
梅雨のこの時期にヤマモモは、甘酸っぱい赤い果実をたわわに実らせます。日本では一部の地域を除きヤマモモの果実はあまり見向きもされません。雲南省では2000年にわたる栽培の歴史がある重要な季節の果物で、大きな果実を付けるものやジュース向けなど、いくつかの品種が開発されています。果実は生食、あるいはドライフルーツとして加工されます。白酒に果実を漬ける果実酒や果実に熱を加えるジャムなど、盛んに利用されます。
ヤマモモ Myrica rubra(ミリカ ルブラ)ヤマモモ科ヤマモモ属。種形容語のrubraは赤い色を表します。ヤマモモは、雲南省など長江から南側の中国と黒潮の影響を強く受ける温暖で湿潤な東アジアの照葉樹林帯に生える常緑の高木です。
ヤマモモは、雌雄異株。雌木は、夏に透明感のある果実を実らせます。それは、ジューシーで酸味と渋み、甘さが混然とした野生の味です。見た目もきれいで小さなルビーを寄せ集めたように輝く果実です。
ヤマモモの果実の中には大きな堅い核が入っています。そのような果実を核果類といいます。核は、内果皮が肥大して堅くなり中の種子を守る構造です。核果は、果実が脊椎動物の餌になり中のタネがふんと一緒に(肥料付き)散布されるように進化したものです。ヤマモモのタネは、表面に細かい毛が生えていて、とても堅く容易には発芽しない仕組みを持っています。ヤマモモのタネは、動物の消化器官を経ないと発芽しないといわれます。
夏になると昆明市の街角では、農家が栽培しているヤマモモが路上で売られています。ヤマモモを中国では、楊梅 yángméi(ヤンメイ)といいます。「楊」はヤナギを意味するので、楊梅はヤナギのように葉が細く常緑で、ウメのような果実を付ける植物という意味になります。
露店で買うと驚くほど安いヤマモモですが、少ししゃれたお店で買うと結構高いのです。1籠58元、日本円で1000円ほどなのでお遣い物にというところです。日本では出回ることがほとんどないヤマモモですが、中国では紀元が始まるころから栽培され、品種の開発が行われていたようです。直径3cmを超える大きなヤマモモの果実も見かけました。
左は日本の野生種、直径は1.7cmほどです。中国の大実種は直径4cmほどです。古くからヤマモモを利用してきた民族は、さまざまな選抜や品種改良をしています。大実系は倍数体と思われますが、中国には多様な遺伝資源があるということだと思います。
昆明市から程近い楚雄市イ族自治州に武定獅子山があります。標高は、2400mほど、ウンナンマツなどの針葉樹と照葉樹の混生林が広がる山です。
タカネゴヨウ Pinus armandii(ピヌス アルマンディ)マツ科マツ属の大きな木の下に、モッコクTernstroemia gymnanthera(テルンストレーミア ギムナンテラ)サカキ科モッコク属が花を咲かせていました。この木の下には、さらに小さな樹木が生えていたのですが、それは不思議な姿をしたヤマモモ属(Myrica)の一種だったのでした。
それは、どう見ても、どう考えてもヤマモモ属(Myrica)です。高さは15~30cmほどしかありません。ヤマモモ(M. rubra)は、成木では15mほどになる常緑の高木ですが、この種は、この大きさで成木のようです。
高さは15cm程度しかありません。しかし、果実の大きさは2cmほどもあります。果実の大きさと植物体のバイオマスは不釣り合いに思えますが、これで成熟した個体です。この植物は、どう見てもヤマモモ属(Myrica)以外に当てはまるものはなさそうです。昆明植物園の先生に照会しましたが、種は分かりません。 ヤマモモの分布中心地と考えられる中国南部にはまだ見ぬヤマモモ属(Myrica)があるのだと思います。
ヤマモモは、照葉樹林の乾燥した尾根筋など痩せ地に生えます。日本はこの植物の分布北限です。寒冷な地方では育たず関東から南の暖地では海岸林などで見かけます。幹は灰白色で、葉は10cmほどの細長い楕円(だえん)形で枝先に束生状(そくせいじょう)に付きます。樹姿が丸くまとまり常緑であることから、暖地では公園植栽や街路樹など造園植栽で利用されます。
夏にヤマモモの赤い実がたくさん付きますが、日本ではあまり顧みられることなく道路に落ちている様子をたびたび見かけます。お金を出せばいくらでもおいしいものを食べられる現代ですが、もったいない気もします。
地面に落ちたものは、鮮度が悪いので木で熟したものを収穫しましょう。日本でもある程度の品種が開発されています。
大実を選抜したヤマモモは、野生種に比較して1粒当たり2.4倍ほどの質量がありました。これならジャムもできそうです。
私も長江の民と同じように、楊梅(ヤマモモ)を親しんでみようと思います。楊梅を泡盛に漬けて果実酒に、ワインに漬けてサングリア、砂糖と煮てジュースにしました。果実はビタミンがいっぱいです。赤い色素は、抗酸化物ですから酸化された疲れた体を癒やしてくれると思います。楊梅は、関東から南の住人が東アジアの照葉樹林帯の民であることを教えてくれます。
次回は、種芋考(たねいもこう)[その2] ジャガイモ です。お楽しみに。