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連載

種芋考(たねいもこう)[その3] ジャガイモ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

種芋考(たねいもこう)[その3] ジャガイモ

2018/08/14

試し掘りの結果に気をよくして、梅雨の晴れ間に収穫を決意しました。関東南部におけるジャガイモ22品種の鉢での栽培結果を記録し、栽培の楽しさと収穫量、食味と感想を忘れないうちに記録にとどめておきました。 アンデス山脈の高地に原生する野生種から栽培化が始まって5000年といわれるジャガイモ。ジャガイモは、東アジアでも独自に品種改良が進んでいます。在来種から最新改良品種までの22品種を収量と特徴にコメントを加え解説します。

話を進める前に、ジャガイモのうんちくを1つ披露したいと思います。収穫したばかりのジャガイモを洗って観察すると、ジャガイモのイモは地下茎が肥大して栄養をためた部位だということがよく分かります。細く白いひげ状の構造が根です。太い地下茎先端が膨らんでイモになっています。イモからはひげ状の根は出ていません。ジャガイモのイモは、地下茎の塊です。それは「塊茎(かいけい)」といいます。

収穫したイモの球茎の先端付近には芽が集中しています。先端から順に近い芽を見つけ曲線を描くと見事にらせん状になります。それは、巻貝がみせるらせんと同じです。さらに、芽の付く角度を計測すると5つの芽で2周しました。計算すると360°×2÷5=144°になります。つまり、無秩序に見えるジャガイモの芽の出方は、地下茎の中心から144℃の角度で生えています。ジャガイモは、各葉に日光があたるように計算をして芽を出すのです。

長倒卵形のメークインのイモにも芽の順番ごとの曲線を描きました。やはり巻貝の巻き方と同じです。この曲線は、生物のDNAに刻まれたフェボナッチの数列から得られる曲線なのです。

まず初めは、古典的在来種の登場です。人気の「男爵薯(アイリッシュコブラー)」は早生種でよく育ち普通に多収です。「無事之名馬(ぶじこれめいば)」といった感想です。ただ「男爵薯」は若干、そうか病(淡褐色~灰褐色のかさぶた状の病斑を形成する病気)気味であったこと、皮がむきにくいのが欠点だと思います。

「男爵薯」の改良系「キタアカリ」も作りやすさは同じでが、味のよさで「キタアカリ」に軍配が上がります。「キタアカリ」は、日本初の耐センチュウ品種、誰にでもおすすめできる名品だと思います。1鉢当たりの収量は、「男爵薯」1300g、「キタアカリ」1250gでした。もう一つ伝統の煮崩れないジャガイモ「メークイン」は倒卵形という形状の中生種で、十分な収量で1400gでした。

※収穫倍数:1鉢当たりの収量をタネイモの重さで割った値。タネイモからどれくらい収穫できるかが分かる。

休眠が深く、貯蔵性が高い「十勝こがね」という在来種があります。芽が出るのが遅いのに枯れ上がりが比較的早いので収量が上がらない、イモが腐る病気に弱いなどの欠点を感じました。「十勝こがね」の貯蔵性を引き継いで、欠点を補う最新改良種が「こがね丸」です。この品種は晩生種で、生育が旺盛でどれよりも収量が上がりました。そしてどれも1つ200gほどの大きなイモばかりです。「こがね丸」は、イモ肌は粗く、見た目はよくありませんが、おいしいジャガイモです。さらに優れた美点は、光によるえぐみの生成が少ない品種という点だと思います。

サカタのタネが改良した品種「レッドムーン」です。赤い色、イモの外観がきれいで“家庭園芸で作って楽しくおいしい”を目標に交配育種されたのがこの品種です。晩生種で地上部の生育がよく丈夫に育ちます。枯れ上がりが遅く6月20日収穫をしましたが、まだイモの形成は続いていました。形は楕円(だえん)形、味は甘くしっとりした粘質です。

最新改良種の「あかね風」という品種です。「レッドムーン」を母親にしてジャガイモYウイルス抵抗性、耐センチュウ性を目的に改良されたのがこの品種です。「レッドムーン」独特の外観とおいしさを引継ぎさらに多収でもあります。写真は、味見をした後なのでイモの量は少なめに写っています。葉が赤葉で花もきれいなので栽培していて楽しい品種です。熟期は「レッドムーン」同様に晩生です。欠点と思うのは成長力がありすぎてイモが二次成長して変形することだと思います。味は粘質でサツマイモの「金時」みたいな食感で甘いイモです。

日本で改良された最新の4倍体の品種群です。耐病性、耐センチュウ性などに力点が置かれているのですが、味にも十分に注意が払われており、どれもジャガイモを副食と考える日本ならではの繊細な味を発展させている名品だと思いました。聞き慣れない新品種の名前に戸惑うことはありません。どんどん新しい品種にチャレンジすべきだと思いました。「さやあかね」というイモは、妙にきれいで色っぽいイモでした。

フランスで育成されたイモたちは、普通に栽培でき、普通に収穫できます。特に欠点を感じませんでした。どれも、芽のくぼみが少なく加工しやすさに力点が置かれ、効率重視の計算された品種だと思います。味は淡泊で主食向き、料理向きのイモたちです。

皮だけでなく、中身までユニークな色がつくカラフルイモがあります。「シャドークイーン」と「ノーザンルビー」です。肉色は「シャドークイーン」は青、「ノーザンルビー」はピンクになります。この他、「男爵薯」などの白、「インカのめざめ」の黄色と合わせるとカラフルイモが楽しめます。それは、家庭菜園ならではの楽しみだと思います。ちなみに「シャドークイーン」は、晩生種で地上部がいつまでも元気です。形は楕円形で、大きなイモではなく、小ぶりなイモがたくさん収穫できます。

ジャガイモの原生地アンデスの2倍体在来種と栽培品種の半数体(2倍体)品種を掛け合わせ日本で栽培できるように改良した品種が「インカのめざめ」です。肉色が黄色でクリを食べるようなおいしさです。この品種はおいしいけどイモが小さく、収量が上がらないといわれます。2倍体品種なので葉が小さく草勢は弱いのです。そして地上部の枯れ上がりが早く極早生種でした。しかし、早く植え付けることや、生育期のケアなどで収量を上げることが可能だと思います。2作しましたが、結果は平均で収穫725g、収穫倍数18倍でした。

「インカのめざめ」の突然変異体とされるのが「インカルージュ」です。地下部、地上部とも赤みを帯び、「インカのめざめ」より生育がよい気がします。枯れ上がりも同様に早い極早生種の系統です。インカシリーズの収量を上げる目的で改良されたのが、「インカのひとみ」です。皮色は特異なまだら模様で味は同等です。枯れ上がりがやや遅くその分養分の蓄積が多いのです。4倍体品種と同等の収穫が望めます。「インカめざめ」の味を求め収量に期待したい人は、「インカのひとみ」を作ればいいと思います。

2倍体品種の味のよさと4倍体品種の収量の多さを併せ持つのが3倍体品種です。地上部が丈夫で晩生です。その分収量も上がります。3倍体品種は、アンデスの在来2倍体品種と栽培種4倍体品種を交配して選抜されたものです。写真は、「アンデス赤」とその姉妹品種「ジャガッキズパープル」です。収量は「アンデス赤」1050g、「ジャガキッズパープル」に至っては最大収穫量1650g、収穫倍数33倍を達成しました。肉質は、それぞれ黄色でホクホク味も満足の品種です。芽が出やすく貯蔵には向きませんのでご注意を。

全ての収穫を終えて。収穫をしたイモを並べてみました。畑ではなく30cm鉢を屋上に設置して栽培をしました。22鉢合計で2万5440gでした。その量は、日本人1人が1年間に食べるとされる量と同じです。ジャガイモは、都会の片隅でもコンテナや鉢でも十分満足のいく収穫ができる楽しい野菜です。畑がなくても、気軽に、楽しく栽培してみましょう。それぞれの特徴はこのあとの表にまとめました。

次回はPlant of Kunming [その7] 石蝴蝶ペトロコスメア 前編です。お楽しみに。

JADMA

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