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Plant of Kunming [その7] 石蝴蝶 ペトロコスメア 前編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その7] 石蝴蝶 ペトロコスメア 前編

2018/08/21

雲南省昆明市にある西山(せいざん)には、コラロディスクス属(Corallodiscus)やパラボエア属(Paraboea)といった、雲南をはじめとする中国南部に珍しいイワタバコ科の植物が生えています。他にもこの地域には、独特のイワタバコ科のグループがいくつか生息しています。森の奥深く、他の植物が生えることができないくらい太陽光が届かない暗い岩場や、垂直の崖に生えるイワタバコ科の植物があります。それは、石蝴蝶と呼ばれる植物群で学名をペトロコスメア属(Petrocosmea)といいます。

イワタバコ科ペトロコスメア属は、 雲南省をはじめとする中国西南部の高地に分布の中心があり、湿度のある岩場に生えるロゼット状をした植物です。40種が発見され、うち33種が中国固有のものとされています。この植物は、どのような場所に生息しているのでしょうか?

昆明市から西南に100kmほど走ると武定獅子山があります。山の総面積は13平方キロメートル、山頂の標高は2419.8m。山頂は平らですが四方は切り立った絶壁の山容を持ち、遠くから見ると伏した獅子に見えるので獅子山といいます。山頂付近は、ウンナンマツやタカネゴヨウマツの林が広がっています。

この山の8合目付近には、建立から670年を経た正続禅寺と数々の民間宗教の施設があります。「世救身捨(身を捨て、世を救う)」泣けてくるような教えです。

正続禅寺の境内には、明の時代の王様が植えたと伝えられる樹齢600年のヤナギスギCryptomeria fortunei(クリプトメリア フォーチュネイ)スギ科スギ属が生えていました。チュウゴクスギとも呼ばれています。中国ではスギは希少木なのです。日本固有のスギCryptomeria japonica(クリプトメリア ヤポニカ)ヒノキ科スギ属の近縁種に当たります。

C. japonica(クリプトメリア ヤポニカ)は、日本の固有のスギです。中国にあるこのタイプのスギは、日本からの移入種と考えられてきました。しかし、600年も前に、しかも中国の山奥に日本のスギが移入したとは考えられず、近年では中国の学者は別種と考えています。ヤナギスギ(C. fortunei)は、日本のスギに比べ枝葉が柔らかく垂れる気がします。

いよいよイワタバコ科の話に入ります。武定獅子山の山頂への垂直な崖を上るために階段や石橋が造られていました。この橋を造るために崖を削った暗い切り通しにペトロコスメア属(Petrocosmea)の植物が生えていました。

どう見ても人工的に削った岩肌でしたが、600年の歳月は人工物を天然物に変える時間なのでしょう。ペトロコスメア属(Petrocosmea)のロゼット状の株が無数に見えます。Petroはギリシャ語で岩を、Cosmeaは美を意味します。この植物が岩の上で美しい花を咲かせることに属名は由来します。

薄暗い垂直な崖は、土壌がなくコケやシダしかありません。コケが作ったわずかな腐植にペトロコスメア類はへばりついています。

Petrocosmea sinensis(ペトロコスメア シネンシス)イワタバコ科ペトロコスメア属。中国名は、中華石蝴蝶といい雲南省周辺の固有種です。多年草で根出葉(こんしゅつよう)がきれいに展開しています。

P. sinensis(ペトロコスメア シネンシス)は全身を柔らかい柔毛で覆われ6~8月に花が咲きます。いかがですか。こんなかわいらしい花を付けるのです。草姿はセントポーリアに似ていますが、面白い生態を見せるのです。それは続編のお話です。

次回は「Plant of Kunming [その8] 石蝴蝶 ペトロコスメア 後編」です。お楽しみに。

JADMA

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