タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

Plant of Kunming [その8] 石蝴蝶 ペトロコスメア 後編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その8] 石蝴蝶 ペトロコスメア 後編

2018/08/28

一年中屋内で栽培できる植物は、観葉植物と相場が決まっています。葉を広げるだけならともかく、花を咲かせることは、子孫を残すためです。屋内ではそのコストに見合う光エネルギーが足りないのです。薄暗い屋内でも栽培ができ、毎年花を咲かせる植物があればよいのですが、現実はそんなに甘くありません。そんな希望をかなえる可能性を秘めるのがペトロコスメア属(Petrocosmea)だと思います。この仲間は、コケやシダしか生息できない光密度の低い環境で進化してきたのです。実際に生息しているのもかなり暗い環境でした。

アフリカンバイオレットともいわれるセントポーリア(Saintpailia)イワタバコ科セントポーリア属は、40年前には大きなブームがあり、大変人気のあった植物です。セントポーリアは、アフリカの雲霧森(うんむりん)に生えるイワタバコ科の植物です。中国南部には、日陰の岩肌に生えるペトロコスメア属が原生します。どちらも形態が似ていますが、生態的には多くの点で異なります。

まず耐寒性の違いです。ペトロコスメア属は、屋内であれば、冬季に特別の加温が必要ありません。凍らない程度の低温で栽培ができます。さらに、光要求度がペトロコスメア属の方が弱く、薄暗い屋内の窓辺であれば、補光なしで成長し花を毎年咲かせてくれることです。私の研究所は半地下です。陽光あふれる窓辺ではないのですが、この株で2年目の開花状態です。

Petrocosmea flaccida(ペトロコスメア フラッキダ)イワタバコ科石胡蝶属。種形容語の flaccida は、柔軟な葉を表します。このペトロコスメアは、雲南省と四川省の標高3000m付近の高地に生えますが、耐寒性だけでなく耐暑性を持ち、安心して育てることができます。

左は、屋内で育て2年目の写真です。右は3年目に入り開花目前の写真です。植え替えなし、肥料もろくにやっていません。一年中、薄暗い屋内でよく育つものです。3年目の株は、葉も株も2年目の倍の大きさに育っています。

ペトロコスメア属の大きな生態上の特徴は、半休眠性というライフサイクルだと思います。開花が終わり、低温短日期を迎えるとペトロコスメア属は、外側の葉の養分を吸収して中心部でロゼットを作ります。葉柄の伸びた外側の葉は、生気を失いしおれ、中心部が毛皮のコートを着たようなロゼットになって冬を越えます。

そして、長日期を迎えるとロゼットが緩み葉柄が伸び、葉腋から花芽を伸ばし開花に至るのです。写真で分かるようにペトロコスメア属は、密生した柔毛に覆われています。

Petrocosmea flaccida(ペトロコスメア フラッキダ)の拡大写真です。和名はスミレイワギリソウと付けられました。かわいらしく場所も撮らない私のお気に入りの植物の一つです。

さて、昆明市は三方を山で囲まれています。北部の裏山に登りましたが、石灰岩が散在する亜熱帯カルスト地形でした。頂上付近は標高2300mほど。石灰岩に挟まれた薄暗い空間にコケと一緒に生えるペトロコスメア属を発見しました。

季節は11月です。このペトロコスメア属は、ロゼットを形成し、外側の葉を枯らした休眠体でした。

写真はPetrocosmea minor(ペトロコスメア ミノール)イワタバコ科石胡蝶属です。花の直径は1.5cm程度、葉は30枚程度付け、葉柄が長く葉の先端は少し尖ります。ペトロコスメア属は、中国南部を分布の中心にするイワタバコ科の仲間、コケなどしか生育できない、自然界の暗がり、垂直の崖にその身の置きどころを作りました。その場所の光環境は、人の住まいの明るさに似ています。東アジア南部に生えるペトロコスメア属は、弱光条件下で花を咲かせます。この仲間は、屋内で生育し花を咲かせることが可能な数少ない植物の一つなのでした。

ペトロコスメア属の話が終わる前にプリムリナ属(Primulina)の紹介もしておこうと思います。この属も、中国南部を分布の中心とするイワタバコ科の植物です。現在 100種以上が知られています。昔はチリタ属(Chirita)といわれていました。やはり湿った日陰の岩肌に生息しています。私の栽培しているプリムリナ属の植物は、ペトロコスメア属と同じ薄暗い窓辺で毎年花を咲かせています。

次回は「Plant of Kunming [その9]東アジア的珍菜2」です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.