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Plant of Kunming [その13]長虫山の植生 後編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その13]長虫山の植生 後編

2018/10/23

古来、中国では奇数は縁起がいいものとされます。旧暦の9月9日(新暦の10月中旬ごろ)は一番大きな陽の数字が重なるので重陽(ちょうよう)の節句といいます。それは菊の節句でもあり、高い山に登り難を避ける習わしでもあります。有名な漢詩に「九月九日憶山東兄弟」というくだりがあります。それは、重陽に山に登り、遠く離れた親兄弟を思うという意味です。現代の中国において重陽に登高(高い所に登ること)することは古い習わしでもあり、レクリエションも兼ねます。

昆明市の長虫山は、人々が気軽に登高を楽しみ、季節になると多くの人々が集う山です。麓から頂上までは歩いて3時間ぐらいかかります。

私の登高の目的は、ズバリ植物を見ることです。遠い異国の地にどんな植物が生え、いかに花を咲かせているのか知りたいのです。ここは、亜熱帯高地カルストという特殊な地形と地質です。

長虫山は、大都会昆明市の身近に残された自然。雲南省という急峻な地形が生んだ中国の里山です。

セキチクDianthus chinensis L.(ダイアンサス キネンシス)ナデシコ科ナデシコ属。学名の後ろに命名者のL.が付きます。それは、生物の名を属名と種名で表す二名法を開発したスウェーデンの博物学者カール リンネ(Carl Linne)が付けた学名であることを表します。命名者の正式名称ではなくドット(.)で名称を省略できるのは、カール リンネだけに許された特権なのです。セキチクは「石竹」と書き、石の原っぱに竹みたいな葉を付ける植物という意味です。

本来、長日開花性を持つナデシコが短日期である晩秋まで咲いているではありませんか! このダイアンサス キネンシスが示す四季咲き性の遺伝子を、西洋のナデシコに導入してカーネーションができたのです。英名をChinese pink(チャイニーズ ピンク)といいます。この植物の顕在花色はピンク色ですが、長虫山では潜在花色の白花を見ました。

北半球に広く自生するクレマチス、中国は日本と同じようにクレマチス属が豊富な地域です。落葉性のクレマチスは、冬に葉を落とすと細い針金みたいな茎だけになります。それがワイヤが連なっているように見えるので、この属の名前を中国では鉄線連といいます。夏に咲いたクレマチスがタネを付けていました。この植物の花が咲いているときの写真(下)があります。

毛茛鉄線連 (mao gen tie xian lian)いきなり中国語で失礼をしました。中国語でもティエ シェンレン(tie xian lian)と発音するのです。それでニホンテッセンというのです。Clematis ranunculoides(クレマチス ラヌンクロイデス)キンポウゲ科クレマチス属。種形容語のranunculoidesとは、花がラナンキュラスに似ているという意味です。

クレマチス ラヌンクロイデスは、つる性もしくは、株立ちになるクレマチス。色形からして魅力的だと思います。昆明市付近では自生量が豊富で珍しいクレマチスではありませんが、園芸的にその名はあまり知られていません。

雲南省をはじめとする中国南部の高地特有の種で、クレマチス ラヌンクロイデスに似て、花を上向きに付ける美しいクレマチスがあるので紹介します。その名も金毛鉄線連といいます。花が受け咲きで雄しべと雌しべが金色なのが特徴です。

Clematis chrysocoma(クレマチス クリソコマ)キンポウゲ科クレマチス属。和名はありません。ピンクの雄しべと雌しべ、美しい花色、幅広のがくを持つので家に連れて帰りたくなるほどきれいなクレマチスだと思います。クレマチス属は、花弁を持ちません。花びらのように見えるのはがくです。花びらかがくか区別がつかない場合、「花被(かひ)」というと正解です。

クレマチス クリソコマには白花もあります。この植物の自生地は乾いた草むらや山の斜面です。そこには絡み付く樹木が少ないので、この株は株立ちに生育していました。私が撮影したのは玉竜雪山の麓で標高3000mほどでした。

雲南省は、亜熱帯地域の高地です。昆明市は春城といわれ一年中春のような陽気が続きます。そんな地域で育った植物たちは、季節を忘れ一年中花を咲かせる性質になります。それが四季咲き性です。Dianthus chinensis(ダイアンサス キネンシス)やRosa chinensis(ロサ キネンシス)などの貴重な四季咲き遺伝子は雲南省の気候が作ったのです。この植物も開花期が長く四季咲き性です。

ウンナンハギCampylotropis polyantha(カンピロトロピス ポリアンタ)マメ科ハナハギ属。属名のCampylotropis とは、豆状花の竜骨弁が大きく湾曲していてLespedeza(レスペデーザ)マメ科ハギ属とは違う構造をしているからです。種形容語のpolyanthaは、たくさんの花を意味します。中国南西部の雲南省などの山斜面や荒れ地に生える低木で園芸店でも見かけます。この属の黄花種など、まだまだ、まだ、まだたくさんの植物が自生する亜熱帯カルストの山ですが、そろそろ次の話題に移りたいと思います。

次週は、雲南省の地にありながらモンゴル帝国に名を刻む山に生える植物のお話です。

次回は「Plant of Kunming [その14]梁王の山 前編」です。お楽しみに。

JADMA

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