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Plant of Kunming [その14]梁王の山 前編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その14]梁王の山 前編

2018/11/06

中国に成立した元の初代皇帝クビライ(Qubilai )はチンギス・カンの孫です。兄がモンゴル帝国の第4代皇帝に就くと中国方面の司令官となり、雲南省に遠征し、かつてこの地にあった大理国を征服しました。それ以来、雲南省は、クビライののフゲチの治める地となり、子孫は代々、梁(りょう)王家と名のります。この権力は、1256~1390年の滅亡に至るまで、実に134年にわたり雲南省に君臨したのでした。今回は、その梁王の名前を残す山、梁王山Liángwángshān(リャンワンシャン)に自生する植物についてのお話です。

梁王山は標高2820m、昆明市から南に約40km、車で1時間ほどの距離に位置し、玉渓市Yù xī 澄江県Chéngjiāngにあります。ここは世界遺産である澄江の化石産地に程近く、地歴のとても古い地域です。その化石の産地がどのくらい古いかというと、陸上に動植物が存在しない時代であるカンブリア紀の海底の跡が見つかっているのです。そこからは、ハルキゲニアなどの奇妙奇天烈な生物群(カンブリア生物群)が数多く見つかる場所なのです。

大洋の縁にある造山地帯である日本列島と違い、大陸は太古からの陸地や浅い海だったのです。梁王山の頂上付近までは車で行けます。道すがら車を止めて林道に咲いている花を眺めましょう。

東アジアはリンドウGentiana属の多い地域です。11月に雲南省の高原では、さまざまなリンドウを大量に見ることができます。

中国では、赤花と黄花は大変珍重されるのですが、どういうわけか青花にあまり関心を示しません。それは、中国において青花はどこにでもある野の草のイメージだからだと思います。この青いタンポポみたいな花は、チコリ(和名キクニガナ)Cichorium intybus(チコリ インティブス)キク科チコリ属です。種形容語のintybusは、アラビア語でこの植物の名前です。野生種はヨーロッパから中央アジア原生とされ、中国では外来種とされますが高原などの冷涼な気候が好みのようです。肥料分が少ないと大きくならないので山野草の風情がありきれいだと思います。

シナワスレナグサといわれるキノグロッスムCynoglossum amabile(キノグロッスム アマビレ)ムラサキ科オオルリソウ属も中国を代表する青花の一つです。通常は初夏から夏に咲く高原の花で長日開花性ですが、亜熱帯地域の高地では日長に関係なく咲く、日長中性の株があるようです。このような株からタネを採れば秋咲きの品種が開発できそうです。

青花に混ざって妙な花を見かけました。これは何でしょう? 植物の形態からPedicularis(ペディクラリス)ハマウツボ科シオガマギク属であることは分かります。そのペディクラリスの中でも異形の種であるオニシオガマの仲間だと思いますが、いくら文献を調べても種名にたどり着くことはできませんでした。

日本海側の日本の山地に局地的に生えるオニシオガマPedicularis nipponica (ペディクラリス ニッポニカ)ハマウツボ科シオガマギク属。葉がシダに似て他の植物にそっと寄生根を忍ばせ光合成産物を横取りするちゃっかりした植物です。東アジアの中では、見知らぬ土地に知らない植物が生えていても、その近縁種が日本にも生えていることが多いので、おおよその推測ができます。恐らく大陸に近い山地に残存する分布から見て、このオニシオガマは、大陸の残存種の一つなのでしょう。

梁王山に生えるオニシオガマモドキPedicularis(ペディクラリス)ハマウツボ科シオガマギク属は、日本のオニシオガマのように羽状に切れ込んだ葉を持っていましたが、葉に白い水玉模様があり少しばかり派手めです。

梁王山を登っていくと遠く林の中に黄色が目に入りました。恐らく中国では、千里光といわれる植物でしょう。それにしても遠くからその存在が分かるので、千里光とはよくいったものです。しかし、この千里光に見られるように中国の数詞に対する行き過ぎる表現と、度を超えた誇張はこの国のおおらかさを示す伝統です。千里は4000kmですからね! それはありえません。

でも、「一里光」なら賛同できます。それほど遠くからでもこの黄色の光が届くのです。望遠鏡でのぞくと確かに千里光でした。千里光は、地際からの高さが3m以上もあり低木や高木がまばらに生える場所に生えます。

千里光の日本名と学名は、キノボリギクSenecio scandens(セネキオ スカンデンス)キク科セネキオ属です。種形容語のscandensとは、よじ登るとかまとわり付くという意味を持ちます。つるがないのでこの植物の場合、まとわり付くが正しい理解です。セネキオ属は通常、草原に生えています。森林へ進出したのか、草原だった場所に樹木が進出したのかどっちか不明ですが、たまたま茎を伸ばす形質を獲得した後代が生存に優位に働き、樹木によじ登るようなこの種ができたのでしょう。

キノボリギクは、日本にも自生しています。四国や紀伊半島の黒潮の通り道の沿岸に限定的に生えます。中国には普通に見られる植物ですが、日本では絶滅危惧種に指定されています。多くの絶滅危惧種を見ると、とても切なくなります。しかし、他の国で普通に生えていると救われたような気になるものです。

次週は梁王の山の中編です。もう少し標高を上げた場所の植物を紹介します。

次回は「Plant of Kunming [その15]梁王の山 中編 」です。お楽しみに。

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