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Plant of Kunming [その15]梁王の山 中編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その15]梁王の山 中編

2018/11/13

山地の林の中では、高木が太陽光線を独り占めするので地表にはわずかなエネルギーしか届きません。キノボリギクが樹木に寄りかかりながら背を伸ばすのは理解できます。梁王山にはそんな事情を抱える植物が他にもありました。トリカブトの仲間が木に登っていたのです。私は、「木登りトリカブト」と勝手に名前を付けました。 

梁王山の下には、玉渓市の撫仙湖(フーシェンフ)が広がっていて、滇池も含め雲南省の3つの湖を見ることができます。この山の北斜面は湖の湿った空気が、山腹をなでるように昇ります。

森林限界付近の尾根は、中国名で華山松といわれる松林でした。Pinus armandii(ピナス アルマンディー)マツ科マツ属。和名をタカネゴヨウマツ(高嶺五葉松)といい英語ではアルマンドパイン(Armand pine)と呼ばれます。

タカネゴヨウマツは、標高の高い場所に生える5葉のマツです。葉色が青みがかりチョウセンゴヨウマツPinus koraiensis(ピナス コーライエンシス)マツ科マツ属をもっと大きくしたような植物です。球果が大きく長さ18cm程度になります。私が知る限り東アジア最大の球果(松ぼっくり)を付けます。

学名Pinus armandii の種形容語は、フランス人のアルマン・ダヴィド(Armand David)に捧げられています。19世紀の中国に宣教師として派遣された彼は、知識を豊富に持つ博物学者でした。フランス政府は中国の動植物調査が、今後の国益にかなうとみて、彼に中国の科学調査を依頼したのです。彼はモンゴル高原や揚子江流域、泰嶺山脈などを精力的に調査しました。国内の動乱、悪い交通事情、重い病気と闘いながら旅が続いたと記録されています。 Armand Davidの名前を由来とする植物は、タカネゴヨウマツPinus armandii、ハンカチノキDavidia involucrata、クレマチス アルマンディーClematis armandiiなど。動物でもシフゾウElaphurus davidianusなどがあります。多くの動植物にその名は刻まれ、その生涯を物語っているようです。

タカネゴヨウマツの幹には、地衣類のサルオガセの仲間が絡み付いていました。それはこの地域が湿潤な環境であることを示します。地衣類は菌類と藻類の共生体で地球上にたくさんの種類があり、種を見極めることが難しいのです。サルオガセを中国では松蘿Sōng luóといい中医薬に使います。

梁王山の急な斜面に生えていたタカネゴヨウマツの幹の中ほどのところに青花が見えたので凝視すると、それはトリカブト属のようなのです。

急斜面を恐る恐る下り、木に登ってその植物を見るとやはりトリカブトです。長い茎と葉柄を持ち、つる状の草姿です。葉柄が巻きひげのようにマツの小枝に絡み付いているのです。それは、「木登りトリカブト」と呼ぶべき植物でした。長さは目視で3mほどでした。

中国ではこの植物のことを蔓烏頭といいます。「木登りトリカブト」の正式名称は、Aconitum volubile(アコニツム ボルビレ)キンポウゲ科トリカブト属。種形容語は巻き付く様子を表します。湿った山腹の斜面、森林、林の縁に生えますが、分布が内モンゴル自治区や東北の省などになっているので、雲南省にあるこの種は亜種かもしれません。

アコニツム ボルビレの形状は、茎がつる状で枝に巻き付き、木に登っていました。まさに「木登りトリカブト」なのです。

実は、このような種は、日本にも九州にだけ特産するハナヅル(ハナカズラ)Aconitum ciliare(アコニツム クレアレ)キンポウゲ科トリカブト属があります。その種は絶滅危惧種なので、まれに見られる植物です。つるの伸びるトリカブトは日本ではハナヅルだけなのです。梁王山で見つけた「木登りトリカブト」とそっくりで、私は同種か変種だと考えています。

ブルークローバーParochetus communis(パロケツス コンムニス)マメ科パロケツス属。ホワイトクローバーの葉にスイートピーの花を付けたような地覆植物です。園芸店で人気のこの植物の野生状態がこれです。この植物は、中国南部、ヒマラヤなどの高原や高山に分布します。

雑草みたいな風情できれいな花を付けるブルークローバーは、亜熱帯~熱帯地域の高地に生えます。それ故に耐寒性はほどほどにありますが、耐暑性がそれほどありません。土が湿っていることを好むのですが、水はけがよいことが生育条件です。霧が舞う斜面に生えていたので、それも納得です。次週も梁王山に生える植物の話は続きます。

次回は「Plant of Kunming [その16]梁王の山 後編」です。お楽しみに。

JADMA

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