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Plant of Kunming [その16]梁王の山 後編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その16]梁王の山 後編

2018/11/20

昆明植物園は、梁王山の山頂付近の岩場で野生のボタンの一つであるPaeonia delavayi(パエオニア ドゥラヴェイー)ボタン科ボタン属を発見しています。それを確認したいと思っていたのですが、野生種のボタンは国家的保護植物の一つで原生地の付近は柵で囲まれていました。そして、梁王山の頂上には宇宙観測拠点が作られていて、立ち入り禁止だったのは残念でなりません。それでもめげずに2800mくらいまで登ったので、その付近の植物を紹介します。

梁王山で行けるのはここまででした。邦人が当局に拘束されたのではしゃれになりません。この辺りのガレ地にはハナイカリ(ハナイカリ属)がたくさん花を咲かせていました。

季節は晩秋です。夏ならば美しい花園になっていたでしょう。それでも異国の花好きのためにお花たちは待ってくれていました。

梁王山のハナイカリはこんな青紫色をしていました。ハナイカリといっても花が怒っているわけではなく、花の形が船のいかりに似ている故の和名です。Halenia elliptica(ハレニア エルリプティカ)リンドウ科ハナイカリ属。和名はムラサキハナイカリです。ハナイカリ属は、リンドウ科の小さなグループで日本での分布は1種だけです。

ハナイカリHalenia corniculata(ハレニア コニクラータ)リンドウ科ハナイカリ属。この種だけが日本の山地の湿った場所に生えます。緑色をしていて小さな花を付けるので見つけにくいかもしれませんが、一度、目が慣れるとよく目に付くほど、妙な花の形をしています。

上の写真は、梁王山のハナイカリHalenia ellipticaです花の大きさは1cmに満たないくらいで、草丈は10~30cmでした。このハナイカリ最大の特徴は、青色の花と葉が楕円(だえん)形をしていることです。種形容語のellipticaとは楕円形の葉を表します。

ハナイカリ属は、タネを付けると枯れる一年草です。日の当たり具合、土壌栄養分の多寡によってバイオマスの大きさが異なっていました。Halenia ellipticaは、中国南部やヒマラヤなどの高地に自生します。属名のHaleniaは、リンネの弟子であるジョナス ペトリ ハレニウス(Jonas petri halenius)にちなんでいます。

頂上付近の岩場にはわい性種のメギBerberis(ベリベリス)メギ科メギ属が赤い実をたくさん付けていました。ベリベリス属は、東アジアの大陸部分からヒマラヤに分布の中心があります。写真のメギ属は種の特定はできていません。

山肌にはナギナタコウジュ属のわい性種がピンクの花穂をたくさん付けていました。この属は低木状に成長し背が高い種が多いのですが、この植物は10cmぐらいの草丈で地を這うように生育していました。

ナギナタコウジュはこのような植物です。ナギナタコウジュElsholtzia ciliata(エルシォルツィア シリアータ)シソ科ナギナタコウジュ属。難しい発音です。花は秋に咲き丈は50cmぐらい、シソ科独特の四角い茎を持ち、葉を対生に付けます。花穂に花が一方向に並びます。その様子が長刀(なぎなた)に似ているのです。コウジュとは香薷と書き、香りのよい葉を表すを漢方上の名前です。

ナギナタコウジュ属は、日本を含め シベリア南部から中国に至る東アジアの温帯および熱帯域に自生する植物群で中国南部が分布の中心です。調べると40種を超えるグループでした。この種は、Elsholtzia pygmaeaElsholtzia saxatilisのようですが、資料や文献では釈然としません。今のところElsholtzia sp.といわざるを得ません。

ナギナタコウジュ属の学名Elsholtziaは、17世紀ドイツ人でフランクフルト出身の、衛生学と栄養学のパイオニアであったヨハン シギスンド エルショツ(Johann Sigismund Elsholtz)の名にちなんでいます。

左の写真のように花が一方向に並ぶのがナギナタコウジュ。Elsholtzia属の大きな特徴なのですが、右の写真のように花穂が円筒形の種もあります。左はElsholtzia fruticosa(エルシォルツィア フルティコーサ)シソ科ナギナタコウジュ属、和名はありません。

Elsholtzia fruticosa(エルシォルツィア フルティコーサ)の花は乳白色で遠くから見ると枯れているようにも見えます。種形容語fruticosaは、低木状という意味で1m程度には育ちます。雲南省などからヒマラヤにかけて高原から3800m程度の標高までに自生します。 

Rosa odorata(ローザ オドラータ)バラ科バラ属。中国では香水月季といいます。現代バラに豊かな香りをもたらせました。梁王山の森林限界付近には、このバラがたくさん生えていました。この木の下にオオカミに食い殺されたまだ新しい草食獣の骸(むくろ)があったのには驚きました。梁王山は、そんな容赦のない野生の山だったのです。びっくりしてその場を足早に去り、車に逃げ帰りました。

雲南省は、さまざまな植物の多様性の中心地の一つでもあり、四季咲き性の遺伝子の宝庫でもあります。この山の植物たちを限られた記事で全て紹介することは難しいので、この辺で梁王山のシリーズを終わりにしたいと思います。遠く南西の地にありながらもモンゴル帝国の名を今に伝える梁王山。そしてそこに生える植物たちよ、再见 zàijiàn。また会いましょう。

次回は「ツリフネソウ属 [前編] 渡良瀬釣船草(ワタラセツリフネソウ)」です。お楽しみに。

JADMA

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