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小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
ツリフネソウ属 [後編] 私に触るべからず
2018/12/04
ツリフネソウ科ツリフネソウ属は、北半球と熱帯地域に広く分布していて、多くが草本で多湿を好みます。種の数は800とも1000ともいわれ、いまだ新発見が続く大きなグループで全容はよく分かりません。北海道やシベリアなどの寒地に自生するツリフネソウ属もありますが、研究の結果から温暖で湿潤なヒマラヤ周辺や中国の奥地がツリフネソウ属発祥の地と考えられているようです。日本や東アジアで見られるツリフネソウ属のあれこれを紹介します。
花被の形が筒状で船をつり上げたように見えるのでツリフネソウといいます。この花の蝸牛(かたつむり)のように丸まっている部分を距(きょ)といいます。ここに蜜をため口吻(こうふん)の長い虫が花粉を媒介します。
ツリフネソウ属の花は立体構造なので理解するのが難しいのです。同じツリフネソウ科のサンパチェンスの花被を分解して調べてみました。距は下がく片と呼ばれる器官に付いていて側がく片が2枚あります。花弁は上の旗弁が1枚、側弁が2枚と下弁が2枚の合計5枚の構造です。ツリフネソウの花被構造は大体このような構造になっていると思ってもよさそうです。
ツリフネソウ属の当主ツリフネソウは日本をはじめ東アジアの山地の湿り気のある場所を好み生える一年草です。泥のたまった側溝などにも生えています。
ツリフネソウImpatiens textori(インパチエンス テクストリー)ツリフネソウ科ツリフネソウ属についての逸話を紹介します。シーボルトは、産業革命の好景気に沸くヨーロッパにおいて、日本の植物が大きな富を生むと考えていました。オランダに帰ってから若きオランダ人Jacques Pierot(ピエロ)を雇い日本に派遣しましたが、途中で世を去ってしまったのです。そこでCarl Julius Textor(カール ジュリウス テクスター)という植物学者をピエロの後継に日本に派遣しました。1843~1845年に精力的に植物採取をしてシーボルトの元に植物を生きたまま送ろうとしたのですが、その船が沈没しシーボルトは大損害を受けました。このツリフネソウImpatiens textoriの種形容語のtextoriとは、その植物学者テクスター(Textor)にちなんだ名前です。 テクスターは、ツリフネソウに名前を残したのですが、肝心の船は皮肉にも沈んでしまったのでした。
ツリフネソウ属にはまれに白花も見つかります。シロバナツリフネソウ Impatiens textori f. pallescensといいます。種形容語の後に「f.」 が付く場合それは、forma (品種)ということです。種としては同じで白い花を付けるタイプだということです。写真をよく見てください。ツリフネソウは、ツリフネソウ属の中では珍しく葉の上に花序を伸ばします。
九州の九重町の山地。一見、ツリフネソウに見えますが、どことなく雰囲気が違うので写真を撮り調べると、ツリフネソウとは別種でした。どこが違うのでしょうか?
この種はツリフネソウに似ていますが、葉の下に花を付けるのです。ハガクレツリフネImpatiens hypophylla (インパチエンス ヒポフィラ)ツリフネソウ科ツリフネソウ属。種形容語のhypophylla とは葉の裏に生じるという意味を持ちます。
このハガクレツリフネは、意外と見ることの難しい種ですが日本に固有の種です。和歌山から四国そして九州の山地に生えています。ツリフネソウより花被色も淡く側弁の形状もツリフネソウと異なっているように思います。