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連載

石蕗(ツワブキ)の花

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

石蕗(ツワブキ)の花

2018/12/25

ツワブキはよくできた植物です。虫にも病気にも無縁で丈夫。施肥や、さしたる手入れをほとんど必要としません。日陰に置いても不平を言わず、いつもツヤツヤの葉で片隅に座っています。自己主張も少なく厚かましくもなく、それでいて冬になると暖かい太陽のように周りを明るく照らし主役を演じることもできる実力者です。全く非の打ちところがありません。千両役者(せんりょうやくしゃ)のツワブキの横顔をのぞいてみましょう。

ツワブキはツヤツヤの大きな葉を持ち、寒空に大きな黄花を咲かせます。照葉樹林帯に住む人たちにとってツワブキはとても身近な植物です。岩礁の海岸や林間に生えているし、好んで庭に植えられています。身近過ぎてそのよさが評価されていなのかもしれないので思い切り褒めておこうと思います。

ツワブキは常緑宿根草です。葉を冬に落とすフキPetasites japonicus(ぺタシテス ジャポニクス)キク科フキ属とは明確に違います。単に葉が似ているだけです。また、日本と中国に固有で山地の湿った日陰に見られるマルバダケブキLigularia dentata(リグラリア デンタタ)キク科メタカラコウ属などによくよく似ていますが、形態上の違いがあります。以前、ツワブキはLigularia(リグラリア)属に分類されていました。現在はFarfugium (ファルフギウム)ツワブキ属として独立しています。

ツワブキFarfugium japonicum (ファルフギウム ジャポニカム)キク科ツワブキ属。種形容語はご存じ日本産を表します。ツワブキは東北南部から朝鮮半島南部、台湾、中国東南部に原生する東アジアを代表する常緑宿根草なのです。変種がいくつかあり日本の島々と台湾に3種ほど記録されています。

ツワブキの主な自生環境は海岸の岸壁です。容赦のない太陽光線、強風、塩分の飛沫などに鍛えられ海岸に生える植物は強靭(きょうじん)な生命力と環境耐性を備えています。ツワブキの丈夫さは海浜植物のそれです。かなり内陸の山地にも自生はありますが、恐らくそこは大昔は海岸だった可能性があると思われます。

いつもは控えめなツワブキですが、1年に一度、冬に花茎を50cmも伸ばし5cmほどの大きな頭状花(とうじょうか)を咲かせます。頭状花はキク科独特の花序で、多くの花が集まった集合花になっています。周りに付く花弁のような花は舌状花(ぜつじょうか)といいます。中心部には筒のような形をした花が集まり筒状花(とうじょうか)とか管状花と呼ばれます。キク科の植物が世界で一番多くの種を分化させたことを考えると、このシステムは繁殖に都合がよいと考えられます。

ツワブキの花色は黄金色(ゴールデン)を基本色にしてホワイト~オレンジ色です。バリエーションは花色だけではなく、筒状花が盛り上がった八重咲きの株もあります。

ツワブキは花だけでなく 葉を観賞する植物としても昔から人々に親しまれてきました。特に江戸時代は、珍奇な斑入りや葉の形態的変化をめでた時代でした。ツワブキには、さまざまな斑入りや変化葉が見いだされ古典園芸植物として現代に受け継がれています。まず、斑入り葉ですが、キメラ斑、砂子斑、蛍斑など、いずれも葉に葉緑体が正常につくられないのが原因でできるのです。それは遺伝的要因によりますが、中には植物ウイルスの感染によって起こる斑入りもあります。

これは、蛍の光のように黄色い斑が入る品種です。たくさんの蛍が群れているようにも見え、とても美しいツワブキ独特の葉芸です。

この斑入りは、遺伝的な変異として生まれたものではなく、この系統に常在するウイルスによって起きる病斑なのです。斑点の中心部が壊死している葉が散見されます。だからといって、このウイルスは他の植物にうつるわけではなくツワブキ独特のものです。病気による症状も観賞の対象にする古典園芸の深遠を見る気がします。

ツワブキは葉の色彩変化だけでなく、葉の形態変化の妙をめでる植物としても楽しまれます。まったく誰がどこから見つけてきたのでしょうか? おまけに春の葉が柔らかい時期は、茎を食べるというのですから、その多芸多才ぶりには驚くばかりです。

ツワブキの変種を一つ紹介したいと思います。沖縄には固有のツワブキの変種があり山間部の川岸に生えています。首里城にはたくさん植栽されていました。

リュウキュウツワブキFarfugium japonicum var. luchuense(ファルフギウム ジャポニカム リュウキュウエンセ)キク科ツワブキ属 は、渓流植物として増水時に水の抵抗を軽減するために、丸い葉の周辺を切り落とした形状を特徴としています。

雑木林の下に咲くツワブキの見事な群生です。丈夫さ、嫌みのなさ、花の美しさ、葉芸の妙味、おまけに食用となれば欠点は見当たりません。ツワブキは東アジアで最も遅く花を咲かせる植物の一つ、すばらしい常緑宿根草です。

次回は「多羅葉(タラヨウ)[前編]」です。お楽しみに。

JADMA

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