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燃える種[後編]ナンキンハゼ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

燃える種[後編]ナンキンハゼ

2019/02/05

産業革命以降、人間の生活は化石燃料の使用で大きく変わりました。エネルギーを自由に使えるのは石油などのおかげです。石油は光合成生物が光エネルギーを使用して水から水素を取り出し、さらに空気中の二酸化炭素を還元して合成した炭化水素がもとになっていると考えられます。ナンキンハゼの油は化石燃料ではありません。再生可能なエネルギーで炭素収支はゼロです。ナンキンハゼの油量生産は生物界の中でも屈指なもの。いつの日か世界人類がこの植物のお世話になるかもしれないと考えるのは私だけでしょうか? ナンキンハゼという植物本体の話に入ります。

ナンキンハゼTriadica sebifera (トリアディカ セビフェラ) トウダイグサ科ナンキンハゼ属。文献にはSapium sebiferum(サピウム セビフェルム)トウダイグサ科シラキ属 と記載されていることもあります。今はナンキンハゼ属として独立させ表記されるようになりました。この植物は暖地性の樹木で梅雨明けごろ黄緑色の総状花序(そうじょうかじょ)を伸ばし、花を咲かせます。

ナンキンハゼは、雌雄同株ですが長く伸びた総状花序の先端部分に雄花を、基部に雌花を付けます。そして雄花が咲く時期と雌花が咲く時期に時間差があります。

葉は、長い葉柄を持つひし形で秋に紅葉します。きれいな紅葉を楽しむことの難しい暖地においても赤くなる木です。

落葉性の高木であり10m以上に成長します。樹皮は灰色で縦に亀裂が生じます。この木は陽樹であり暗い森や林の中では生育できません。開けた明るい場所に生育する木です。

紅葉が終わるころナンキンハゼの実は熟します。種子は黒い殻に包まれていますが、それが脱落すると白い脂肪のコートに包まれた種子が露出するのです。それが、木にたくさんのポップコーンが付いているように見えることから英名のPopcorn treeともいわれます。

するとナンキンハゼの木はお祭り状態に突入します。ひっきりなしに、カラス、ムクドリ、ヒヨドリ、スズメなどがやってきて実をついばみ、あるいは丸のみしていきます。ムクドリやヒヨドリたちはパン食い競争さながら枝に揺れている実を難しそうに食べます。

頭のいいカラスたちはある方法を開発しました。それはあり余る体力で枝ごと実を引きちぎり、足元に手繰り寄せ押さえて食べる技です。

ナンキンハゼの木の下には、そんなカラスたちの宴の痕跡がたくさん落ちてきます。随分と雑な食べ方ですが、これが無駄になるわけではありません。この後たくさんのハトなどが実をついばみ数週間もするときれいになくなってしまいます。ナンキンハゼの実はおいしそうには見えませんが、高いカロリーを必要とする鳥たちには人気があります。数多い木の実のうちでも優先的に食べられます。

ナンキンハゼの白い実は、鳥たちを養うことやバイオエネルギーとして利用するほか、装飾的に利用しても面白いのです。リースやスワッグなどにしてみました。写真はナンキンハゼの白い実をアクセントにした私の作品です。また、根や茎の皮を乾かし烏臼(ウキュウ)という漢方薬に使用します。この木はいろいろと利用価値があるのです。

ナンキンハゼは、明るい開けた場所であれば、土質を問わないで生育します。病害虫とも無縁で強健であることから、公園などの植栽に使われたのですが、今では野生化してあっちこっちの開いたスペース、道路際や線路の縁などで見るようになりました。

東アジアの片隅に生えていたナンキンハゼは、人間の都合によって世界中に移植されました。移住先でも持ち前の丈夫さと鳥を種子散布に使う戦略が功を奏して生息域を広げています。しかし、ナンキンハゼは、陽樹ですから森の国である日本の自然林に入り込むことはありません。ナンキンハゼは人が壊した自然の傷を癒やすように芽を出し、実を結ぶのです。

次回は「世界球果図鑑[その1]」です。お楽しみに。

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