小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
世界球果図鑑[その2]
2019/02/19
針葉が2枚で1束になっているのが二針葉のマツです。バビショウ(馬尾松)がそうでした。ウンナンショウは三針葉でした。世界球果図鑑[その2]は雲南省で見られる5枚で1束になっているゴヨウマツ(五葉松)の話からです。
雲南省玉渓市の山地、標高2700m付近にはタカネゴヨウの林がありました。
No3. タカネゴヨウ(高嶺五葉)Pinus armandii(ピヌス アーマンディー)マツ科マツ属。種形容語はフランス人宣教師であり博物学者のアルマン・ダヴィド(Armand David)にちなみます。
タカネゴヨウは、中国南部と台湾の標高の高い所に広範囲に生えます。大体2000mから森林限界の3000m程度の高度で見ることができます。葉は、青みがかった緑色をしていて25cmほどの長さがあり風になびきフサフサと揺れる姿がエレガントなマツです。
葉が長く葉の色が青いのが見てとれると思います。タカネゴヨウは1カ所から5枚の針葉が出る五針葉のマツです。樹皮は灰色で英語ではChinese white pineといいます。
樹形は円すい形をして30mを超える高木になります。枝先に遠くから見ても分かるような大きな球果を付けています。ぼろぼろのくたびれた球果は下に落ちているのですが、フレッシュな球果は木に登るか、嵐で枝が折れないと手に入れることはできません。木に登って採取すると松やにで手がベトベトになりました。
球果は下向きに付き、先のとがった樽型でどっしりとした形状です。小さなものでは9cm、大きな球果は16cmほどになります。
種の色は黒色。長さは1cmあり大きなものです。通常マツの種は翼があり、球果から風に乗って飛ばされる風散布という方法で母株から旅立っていくのですが、タカネゴヨウは鳥や小動物に食べてもらいこれらの蓄食行動に伴って種子散布を図るのです。この大きな種は人の食用にもなりますが、人間はタカネゴヨウの役には立っていません。
雲南省の地には、もう一つゴヨウマツがあります。
No4. ヒマラヤゴヨウPinus wallichiana(ピヌス ウォーリッチアナ)マツ科マツ属。それは飛び抜けて大きくなるマツです。周りの木々たちから抜き出る大きさで、記録では樹高70mにもなります。種形容語のwallichianaとはデンマーク生まれの植物学者ナサニエル・ウォリック(Nathaniel Wallich)にちなみます。彼はインド、ヒマラヤの植物をヨーロッパに紹介しました。
ヒマラヤゴヨウの葉は長く タカネゴヨウよりさらに繊細で長さは20cm程度あり青い色をしています。英語でBlue pineとも呼ばれています。中国の雲南省南西部からアフガニスタンに及ぶ山岳地帯の標高の高い場所に原生します。そして、細長いソーセージ型の球果を優雅にぶら下げるのです。
樹皮は、縦に亀裂が入り茶色がかった灰色をしています。葉を広げてみましたが名前の通り5枚で1束の五針葉のマツに違いはありません。
球果は小さなもので約12cm、大きなもので約26cmでした。色は新鮮なもので赤褐色ですが、下に落ちてしばらくすると風化して灰色になります。鱗片(りんぺん)は薄く紙のようで軽い球果です。乾燥するとよく開き種を飛ばします。
ヒマラヤゴヨウは、タカネゴヨウと同じ五針葉のマツですが、種の散布を風に任せる、風散布種子で種に翼が付いています。種の大きさは翼部分を入れて約3cm。おかしなことに表と裏で色が違うツートンカラーなのです。球果を解剖して構造を調べました。鱗片は葉が変化したものです。茎に葉が付いているように鱗片が付いていて直接、翼の付いた種が格納されていました。
もう一度左のヒマラヤゴヨウの球果を見てみます。柄の長さを入れると長さは約30cm(正味約26cm)あります。この種の松かさが東アジアで最長の大きさであることは間違いありません。しかし、重さは約48gしかありません。右のタカネゴヨウは、がっちりとした木質鱗片を作ります。長さは約18cm、重さは約130gです。今まで私が見てきたマツの中でこの両種が東アジア最大の長さと重さであると思います。しかし、これで驚いてはいけません。「世界球果図鑑」では上には上があります。
次回は「世界球果図鑑[その3]」です。お楽しみに。