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世界球果図鑑[その3]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その3]

2019/02/26

北アメリカ大陸の陸地を削るミシシッピ川などの大河川は、大量の土砂を伴いメキシコ湾に注ぎます。土砂はGulf Stream(ガルフストリーム)といわれるメキシコ湾流に流され、大西洋の入り口に堆積します。土地を踏みしめるとそこは砂地です。私はここが巨大な砂州だと直感しました。このフロリダ半島付近には、かつては巨大なマツが生い茂る広大なサバンナがあったのです。資料によるとその広さ36万平方キロメートルというのだから、その広さを実感することすらできません。

その松林の主役が上の写真です。
No.5 ダイオウショウPinus palustris(ピヌス パルストリス)マツ科マツ属。種形容語のpalustrisとは、沼地を好むという意味を持ちます。暖地性のマツでフロリダ北部から中央部、そしてその周辺の州に原生し北アメリカ東南部を象徴するマツです。

ダイオウショウは大きなマツです。老成した株は幹回り1.2m、高さ47mに達するといいます。そんなダイオウショウの巨木が林立する風景は、人の手によって過去に失われてしまいました。ヨーロッパからの入植者はこの木で丸太小屋を作り、その林を住居や農地に、そして事業用地に開発したのです。そして、広大なダイオウショウの林は95%が消滅したと英文の資料に説明があります。

ダイオウショウの木肌は赤く、樹皮は大きな鱗片(りんぺん)状になります。成長は遅く成熟するのに100年。寿命は500年ほどの長寿の大木です。まさにマツの王様、大王にふさわしいマツです。

ダイオウショウの葉の長さは、あらゆるマツ属の中で最も長いのです。葉は3枚が束生する3針葉で長さは30cm以上、ときには45cmに達します。特に幼苗のころは“grass stage(グラスステージ)”といい、葉が長く密に束生し、山火事に耐火性があります。成長の遅いダイオウショウは、10年ほど草状の姿で過ごします。このときに他の植物が繁茂するとダイオウショウは生育できません。アメリカ東南部のダイオウショウの広大な森は、自然の山火事によって成立していました。

ダイオウショウは受精後20カ月をかけて球果を雄大に作ります。よく見ると下向きに小さなとげを持ち触れると少し痛いのです。球果の大きさは、15~25cmほどもあり立派で存在感のある松ぼっくりです。

ダイオウショウの種です。種子そのものは9mm程度ですが、翼を入れると大きなもので5cmほどになります。樹上からは、この翼でヘリコプターの羽根のようにクルクルと回りながら落ちるのです。

日本にクロマツとアカマツが混生するように、アメリカ東南部にはダイオウショウとスラッシュマツが生えます。
No.6 スラッシュマツPinus elliottii(ピヌス エリオッティー)マツ科マツ属。老成した株で幹回り60cmほど、高さは30mほどに成長する3針葉のマツです。

樹皮は灰褐色で幹は見事に直立します。ダイオウショウが重厚長大で長命のマツに対してスラッシュマツはパイオニア植物的で、芽が出た場所で急速に成長する代わりに長生きではありません。このマツはダイオウショウよりさらに南のフロリダの亜熱帯域にまで分布をします。カリビアマツとも呼ばれる暖かい気候を好む種ですが、日本の関東地方に植えられていることもあり、ある程度の耐寒性があります。そして松枯病に強いのも美点の一つになります。

スラッシュマツの球果です。大きさは10~15cmほどあり、円錐(すい)形で先端が急に細くなります。鱗片は茶色で光沢があり、下向きにやや鋭いとげを発生させます。

スラッシュマツの種は翼を含み2.5cmほどでダイオウショウの約半分の大きさです。

スラッシュマツには、一つの変種があります。
No.7 ミナミフロリダスラッシュマツPinus elliottii var. densa(ピヌス エリオッティー デンサ)マツ科マツ属。スラッシュマツよりさらに南に分布し熱帯域に生えるスラッシュマツの変種です。

ミナミフロリダスラッシュマツの球果は、典型的なスラッシュマツに比べるとよく似ていますが大きさがまったく違います。長さは8~9cmと小柄です。ただ、大きさが違うだけなら、よくあることで変種にはならなかったでしょう。形態や生態も多少違うのです。

ミナミフロリダスラッシュマツの幹と球果です。普通のスラッシュマツの半分の大きさです。そしてこの樹皮に、 var. densaの葉が付いているのが解りますでしょうか? スラッシュマツは、3針葉なのですが、このマツの葉はおよそ2針葉であり、時々3針葉となるのです。

もう一つ、北アメリカ南東部のマツが残ってしまいました。続きは次回をお楽しみください。

次回は「世界球果図鑑[その4]」です。お楽しみに。

JADMA

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