小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
世界球果図鑑[その4]
2019/03/05
北アメリカには球果にとげを作るマツ属が多く生息しています。この地域は、東アジアと同じように大陸の東岸という地理的共通性がありともに沿岸に流れる海流は暖流。冬寒夏暑。年間を通じ降雨があり、特に葉が生い茂る夏の時期に多雨となります。そのため、生育に多くの水を必要とする樹木には都合がよいのです。そして東アジアとともに世界各地で絶滅してきた木々たちが生き残る地域にもなっています。
世界球果図鑑[その4]では、この地域において球果鱗片(りんぺん)のとげを著しく発達させたマツ属を紹介していきます。
若い球果の姿は、鬼の金棒みたいな形状をしています。いかつく、完全武装の姿は野生で子孫を残し続ける環境の厳しさを表しているのだと思います。一つ一つ解説をしていきます。
No.8 テーダマツ(タエダマツ)Pinus taeda(ピヌス タエダ)マツ科マツ属。種形容語のtaedaとは、松やにのある、もしくはたいまつという意味です。英語ではテーダマツのことをloblolly pineといいます。その意味は、ぬかるみとか泥海を表し、ダイオウショウの種形容語であるpalustris(沼地を好む)という意味と重なります。テーダマツはアパラチア山脈から南の北アメリカ東南部に分布するので、分布域と生息条件がダイオウショウと重なります。
そして、テーダマツも、ダイオウショウと同じように、周りの木々たちから頭が抜け出すように巨木になります。現存テーダマツの最大樹高が51.4mというのですからビルの12階建てぐらいの大きさです。木の成長は早く、サザンイエローパインという名前で木材資源とされています。
葉の長さは中くらい、剛直で太く、3枚で1束の3針葉です。長さは12~20cm程度あり若干ねじれるように見えます。
テーダマツの球果は成熟しても幹から脱落しません。長い間、木に付いて、種子を拡散させます。大風などで枝が折れないと下に落ちないのです。大きさは8~12cmくらい、形は中ほどが膨らむ楕円(だえん)形もしくは樽型をしていて明確で鋭いとげを付けます。球果はトゲトゲなので触って握ると痛いのです。
北アメリカ東部にあるアパラチア山脈周辺から東北部にかけては、テーダマツと同じように鋭いとげを持つリギダマツが生息します。
No.9 リギダマツPinus rigida(ピヌス リギダ)マツ科マツ属。種形容語のrigidaとは硬いもしくは粗いを意味します。樹形は不規則に曲がることが多いので木材資源としては優れません。しかし、マツ材線虫病に強い耐性を示す点で注目されています。樹形は粗暴荒削りで奇妙な風貌をしています。
リギダマツは、乾燥して栄養分の少ない場所である砂地、砂利地、崩壊地などを主な生息地としています。このリギダマツには面白い特徴があります。それは、太い幹からも直接不定芽を付けることです。
なぜ、リギダマツがこのような不定芽を持つのでしょうか? それは、この地域でたびたび起きる山火事によるのです。火事で木が焼けて、大事な先端部分が焼け落ちても、太い幹が残っていれば不定芽からの再生が可能だからです。
リギダマツの球果には鋭く大きなとげがあり、枝に付き樹上に長くとどまります。大きさは6~10cmほどで中型の松ぼっくり、形は先細りで円錐(すい)形をしています。
No.10 バージニアマツPinus virginiana(ピヌス バージニアナ)マツ科マツ属。種形容語のvirginiana とは、元々は乙女を意味する言葉なのですが、この場合はこのマツの生息地の一つである北アメリカ東部のバージニア州を意味します。
北アメリカの東北部にはアパラチア山脈があります。カナダからアメリカ東北部に位置する丘陵性の地歴の古い山脈です。この山脈周辺にはバージニアマツが生息しています。高さが10m前後の中型のマツで、乾燥した貧栄養状態の土地を好みます。枝に5cmほどの球果をわんさかと付けるのですが、それが脱落せず枝の上に長くとどまります。
球果には柄(え)がなく、強固に枝に固定されています。大きさは5cmほどの小型でやはり鋭いとげを持ちます。
バージニアマツの球果が枝に付いている様子です。葉は黄緑色をしていて2枚で束生しています。それはクロマツと同じようですから、バージニアマツは2針葉マツになります。葉の長さは6cmほどでねじれて付いています。
北アメリカ大陸東岸をフロリダから北上してバージニアまで来ました。次回はもう少し北上して寒地を好むマツを紹介します。
次回は「世界球果図鑑[その5]」です。お楽しみに。