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世界球果図鑑[その6]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その6]

2019/03/19

北アメリカ大陸東岸とユーラシア大陸東岸の東アジアは地理的、気候的共通性があり、植物学的には大陸東岸気候型という同じカテゴリーになっています。今回は、植物の気候区分としては、秋から春に降雨があり、夏に暑く乾燥する地中海沿岸気候型という区分に生息する、マツ属の球果を紹介します。

No.13 イタリアカラカサマツPinus pinea(ピヌス ピネア)マツ科マツ属。種形容語のpineaは松かさを意味します。幼い苗はトウヒのような姿をしていますが、老成した株は樹冠が丸くかさ状になるマツです。樹高は20m程度に育ちます。このマツは、ヨーロッパでは種子が販売されていて、種をまくと成長は早く1年で20~30cm程度の苗になります。

イタリアカラカサマツは英語でEuropean nut pine(ヨーロッパ ナッツ パイン)と呼ばれ、地中海沿岸域の人々はそれを紀元前から食用としてきました。種が大きく生で食べてもおいしいのです。松の実として最高級の味だと思います。それ故にこの地域では、各地に植えられもともとの原生地が分からなくなっているようです。

このマツは、実生から5年程度の若苗には短い葉が生えますが、以降マツらしい長い針葉が生えます。成長したマツの枝が後ろに見えます。葉は成長とともに変容していきます。成木の葉の長さは10cmぐらいでよれて生えます。葉の束生状態を調べると若いマツには、1針葉や2針葉、3針葉があり、定かではありません。成熟した木のマツの葉は2針葉とされています。

和名と同じで英名にも命名規約がなく、人々が勝手に名前を付けて使われます。いわゆる通称名ということになります。イタリアカラカサマツには、この球果の形状から Italian stone pine (イタリアイシマツ)の名もあります。閉じた球果は確かに石のようです。

イタリアカラカサマツは鱗片(りんぺん)が分厚く木質感たっぷりで重い球果です。松かさが成熟するまでは通常2年ほどかかるのですが、このマツの球果が出来上がるには、雌花が受精してから3年ほど、マツ属の中では最も時間がかかり成熟する球果の一つで36カ月もの期間が必要です。

球果は、長さ10cm、幅10cmの平たい円錐(えいすい)形、重さは100~150gです。この球果は、イタリアのナポリに行った知人が妙な樹姿のマツの下に落ちていたというのです。チーク材のような色と質感を持ちオブジェにもなります。

No.14 フランスカイガンショウPinus pinaster(ピヌス ピナスター)マツ科マツ属。このマツは、地中海沿岸域に固有のマツです。北アフリカのチュニジア、アルジェリアからイベリア半島、フランスからイタリアの地中海沿岸域に原生します。雄々しく雄大に育つマツで、ヨーロッパに生えるマツの中で最も剛直な樹姿だと思います。背丈は30mほど、幹の直径は1.2m程度に育つ常緑の高木です。針葉は太く通常のマツの倍の太さです。オニマツの別名は、恐ろしいのではなく、たくましい姿から付いたのだと思います。

フランスカイガンショウは、成長が早くスペインやフランスでは木材資源として利用されます。このマツの最大の特徴は、この樹皮のユニークさにあるといっても過言ではありません。幹は太く、樹皮は赤茶色で鱗片(りんぺん)状に深く亀裂が入り幹を覆っています。

この樹皮は、雲母のように一枚一枚自然と剥がれ根元周辺に落下します。それは、ジグソーパズルのパーツのようです。

さらに乾燥が進むと、1枚の樹皮は薄く剥がれ、さらにいくつかに分かれました。1枚のパーツはとても軽く1gほど。発泡剤のように材に空気が含まれている感じです。ということは、もしかして!

案の定、樹皮はよく燃えました。フランスカイガンショウは、針葉だけでなく自らの幹の周りに、燃えやすい樹皮をまき散らし、山火事を誘発させるのだと思います。

フランスカイガンショウの閉じた球果です。長さ13cm、幅6cm、重さ130gと重厚です。この球果は受精後2年ほどかけて成熟します。その後、枝に付いたまま数年かけてゆっくり開き種を飛ばすのです。ところが、山火事にあうと球果は炎の熱で鱗片(りんぺん)を大きく開き、種を一斉に飛ばすのだといいます。

その種がこれです。翼部分を含めて、大きさは2.5cmくらい。球果の鱗片(りんぺん)に付いていた側が白く、空気に触れていた部分が黒くなります。薄い皮膜を持って一生に1回の空中飛行をします。山火事で焼けた原野でマツの仲間は、一斉に発芽し森を再生します。その後、広葉樹が茂ってくると、暗い森になってマツの仲間は衰退していくのです。

フランスカイガンショウの開いた球果です。重量感があり、このマツのたくましさそのもののような気がします。

マツの仲間は、古代に生まれました。腐植で豊かな土壌になっていない貧栄養状態の土地に生息してきました。崖地や、山がくずれた崩壊地、岩だらけのガレ地や砂地などで急速に成長していきます。それが、基本的なマツ属の生態です。

次回は「世界球果図鑑[その7]」。メソポタミア古代都市名を持つマツの話です。お楽しみに。

JADMA

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