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小さな沢植物[中編] ワサビ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

小さな沢植物[中編] ワサビ属

2019/04/09

山地に入り、沢歩きをすると砂利だらけの平瀬にワサビを見つけることがあります。野生のワサビはフキと見まがうばかりの大きな葉を付け独特の茎はあまり肥大していません。それでも葉や茎をかじるとワサビの風味があります。 ワサビは、Eutrema(エウトレマ)属の植物で日本に2種、世界の北半球に10種ほど原生する小さなグループです。日本の山地の沢筋に原生するワサビEutrema japonicumは日本の沢に固有の種で、日本において作物化されました。

ワサビは、直射日光に弱く冷たい清流で育ちます。魚の生食文化において、魚の臭み取りや殺菌作用を持ち合わせた薬味としてなくてならないもので、和食の普及とともに世界的に認知され、WASABIという表音は世界共通の言語になっています。

深山幽谷に生えるワサビの山菜的利用がいつから始まったのかは定かではありません。江戸時代、今の静岡を治めていた徳川家康に自生のワサビが献上され、この葉が徳川家の家紋である「三つ葉葵」に似ていることから幕府の庇護を受け門外不出の扱いとなったと記録されます。野生に生えているワサビは、静岡市葵区有東木(うとうぎ)地区において栽培種になり、刺し身やそばの普及とともに広まっていきました。

Flora of china(フローラオブチャイナ)というデータベースを調べると、Eutrema yunnanense(雲南ワサビ)中国語で南山萮菜(nan shan yu cai)という植物があります。陝西省、四川省、雲南省など標高の高い山地の渓流に見られ形状はワサビEutrema japonicumと同じとされます。この地でも山菜として葉や茎が利用されているのですが、ワサビの独特の風味はないといいます。

日本固有種 ワサビEutrema japonicum(エウトレマ ジャポニカム)アブラナ科ワサビ属。種形容語のjaponicumは日本産を表します。日本のワサビは、大陸のワサビEutrema yunnanense(エウトレマ ユンナネンセ)と共通の母種を持ち大陸と日本の地において独自に進化した種とされます。なぜに日本のワサビが独特の風味を身に付けたのかいろいろの仮説を考えるのは楽しいことです。 

私は、虫による防御手段として辛み物質をつくった後代が生存に有利に働いたからではないかと思います。ワサビ属の特徴は、根出葉であり根茎を持つ宿根草であり無毛。長い花柄の先には、アブラナ科独特の4枚花弁を持ち白花を総状に付けます。ワサビの原種は山地の渓流や沢に生えます。沢などで栽培し主に根茎を収穫する作物ですが、畑に植えて茎葉を収穫する畑ワサビとして利用することもできます。

ユリワサビEutrema tenue(エウトレマ テヌエ)アブラナ科ワサビ属。種形容語のtenueは、細く弱々しいさまを表します。ワサビ属で日本の北海道を除き日本全国で最も一般的に見られる種ですが、日本固有の種になります。

この種は日本の沢に固有の種であり、降水量に恵まれる渓流や沢のほとり、特に湿った苔蒸した岩などに付いているのがお好みです。

ユリワサビは全体に小柄でかぼそく、見た目はペンペングサの兄弟のようです。それでも小さな地下茎を持つ宿根草で、ワサビ同様に全草を山菜として利用することができます。茎を食べるとやはりこいつはワサビです。

ユリワサビの花が咲くのは春3~5月、全国の沢筋で小さな白い花を咲かせます。花の大きさは1cm程度で十字状の花を付けるので昔は十字花科といわれました。花柄には苞があり花後に果実は細長くなります。

雨の多い日本に固有のワサビとユリワサビ、春のこの時期に山地の沢に行かれることがあれば少し川沿いを歩いてみましょう。小さな白い花を咲かせたワサビに出合えるはずです。

次回は「小さな沢植物[後編] ネコノメソウ属」です。お楽しみに。

JADMA

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