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貝の母 バイモ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

貝の母 バイモ

2019/05/14

春のまだ寒い時期にいち早く茎を立ち上げ渋い花を咲かせるバイモ。異国生まれでも、日本育ちとばかりにすっかりなじんで庭の片隅やちょっとしたやぶなどにも顔を出します。特段に美しく咲き誇るわけではないけれど、今年も会えたらうれしい花です。日本の名前はアミガサユリといいます。バイモは中国名を日本語に直したものです。なぜ貝の母なのでしょうか?

貝は軟体動物門の貝殻を持つものです。大きく分けて、頭足類に分類されるイカやタコの仲間、斧足類とされる二枚貝、腹足類である巻貝に分かれます。貝母(バイモ)といわれる植物は、球根が二枚貝のような形状をしていて、その内部に次世代の新しい球根を作ります。

バイモの球根です。地下の葉が栄養貯蔵器官になった鱗茎(りんけい)という形態です。バイモの鱗茎は2枚の鱗片(りんぺん)が合わさっているので二枚貝のように見えるのです。この鱗茎は中医薬や漢方で貝母といわれ薬用にされます。

バイモはユリ科バイモ属 Fritillaria(フリティラリア)属です。Fritillariaはfritillus(サイコロを入れる筒)を意味します。つぼ振りのつぼのことです。北半球に100種以上、主にヨーロッパなどに分布します。写真は洋種バイモと呼ばれるフリティラリア メレアグリスFritillaria meleagrisです。

バイモ Fritillaria thunbergii(フリティラリア ツンベルギー)ユリ科バイモ属は、まだ寒い3月にいち早く咲きだします。ユリ科球根の中でも早咲きです。草丈は30cmから長いものでは80cmほどに伸びます。葉は基本的に互生ですが、輪生になったりして結構適当です。上部の葉の先端は巻きひげになり近くの枝などに絡み付きます。花茎の先に1~6個、3~4cmの薄い黄緑色の花を下向きに咲かせます。

花にはがくと花弁の区別がないので花被といいます。花被は6枚、おしべ6本、めしべは1本ですが、先端が3つに裂けています。内側に茶色の斑紋があり、編み込んだかさに見えるのでアミガサユリという和名があります。

めしべの基部に子房(タネを保護する器官)があり、花被片の内側にあります。それを難しい言葉では子房上位といいます。チューリップやヤマユリなどは子房上位です。スイセンやヒガンバナなどは花被片の外側に子房が付くので子房下位といいます。覚えておくと難しい植物分類の助けになります。

バイモの種形容語のthunbergiiはスウェーデンの植物学者Carl Peter Thunberg(カール ピーター ツンベルグ)のことです。バイモは、日本で野生化している帰化植物ですが、原生地はどの資料には中国としか記載されていません。中国といっても広大な国のどこに原生しているのか知りたいところです。

中国ではバイモを浙贝母zhe bei muといいます。浙とは浙江省のことです。バイモは中国でもアジアモンスーンの影響を受ける照葉樹林帯の長江以南の温暖な浙江省周辺に原生します。自生環境は日陰地から半日陰地であり、土が乾かない林縁や竹林なので日本の国土との相性がよかったのです。

春いち早く咲くバイモは意外と早く地上部を枯らし長い休眠に入ります。バイモは、一年の大半を寝て過ごすのです。葉が枯れた株を掘り上げてみました。バイモ(貝母)は、二枚貝のような鱗片の中に双子の子どもを宿していました。これが貝の母といわれるゆえんなのなのだと思います。

次回は「小さな苧環(オダマキ) ヒメウズ」です。お楽しみに。

JADMA

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