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旅立ち[後編] イカリソウ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

旅立ち[後編] イカリソウ属

2019/06/04


東アジアが分布の中心のイカリソウは、生息する地域によって多様化しています。暖かい地域や雪に埋もれる環境には常緑性のイカリソウの種が原生し、寒さのより厳しい地域や冬の寒風にさらされる地域では落葉性の種が生息しています。元々常緑性であっても、より寒い地域で栽培をすると落葉性になったりします。

イカリソウ属は、メギ科Berberidaceae(ベルベリダセアエ)の一属です。花弁より目立つがく片を持ち、花を下向きに咲かせるメギの花を見ると、イカリソウとの類縁関係も納得できます。

ホザキイカリソウEpimedium sagittatum(エピメディウム サギタツム)メギ科イカリソウ属。中国南部に原生する常緑性のイカリソウです。元々暖かい地域に生息するイカリソウでは落葉の必要がないのだと思います。日本では常緑でいられず落葉する場合もあると思います。この植物は、有名な淫羊藿(いんようかく)といわれる中医薬、漢方の強壮剤として利用されます。

ホザキイカリソウの花を拡大しました。1cm以下の小さな花で距(きょ)は発達していません。その花はイカリソウというよりメギの花に似ています。中国南部でも川岸の斜面など湿り気がある林縁などに原生し、薬用にはこの種が最も有効だとされています。

バイカイカリソウEpimedium diphyllum(エピメディウム ディフィルリウム)メギ科イカリソウ属。日本の固有種であり、中国地方~四国、九州の暖地林内に原生します。常緑性のイカリソウで硬くツヤのある葉を付けます。

バイカイカリソウは、小さな花を付け、イカリソウよりはメギの花に似ています。花弁が筒状の形状を取らず、距を発達させなかったイカリソウです。オダマキの変わり者であるフウリンオダマキに似ている花でもあります。

バイカイカリソウの種形容語のdiphyllumとは2枚の小葉を意味します。通常、イカリソウ属は、2回ほどの3出複葉という葉の形態をしていますが、バイカイカリソウは1回から2回の2出複葉という形態をしています。常緑性であること、花が小さく距が発達しないこと、葉が2出複葉であることがバイカイカリソウの特徴です。

イカリソウらしい、錨(いかり)形の花を付ける常緑性のイカリソウです。
トキワイカリソウEpimedium sempervirens(エピメディウム センペルビレンス)メギ科イカリソウ属。種形容語のsempervirensとは四季に葉を付けるという意味です。

トキワイカリソウは、日本の固有種で本州の中部から山陰地方までの日本海側の雪深い地域に原生します。和名のトキワは常盤の意味で常に変わることのない岩を意味します。写真を見ると下にツヤツヤで硬い常緑の葉があり中段に花、上方に新しい葉が展開しているのが分かると思います。

トキワイカリソウの葉や花は、日本の太平洋岸に生えるイカリソウとあまり変わるところがないように見えます。トキワイカリソウは、イカリソウの多雪帯に適応した種ではないでしょうか? 違うところは、落葉性ではなく常緑性で葉は硬く落葉せずに翌年まで付いていることです。通常、常緑性は暖地で見られますが、常緑性のトキワイカリソウは、豪雪地帯に原生します。雪の下は冷たいでしょうが、土は乾くことなく意外とイカリソウにとって暖かいのかもしれません。

イカリソウ属は8枚のがく片に4枚の筒状の花弁を持ち、その基部から長い距を伸ばします。その特異な姿は、見方によってはさまざまに見えるでしょうが、先人たちは、船が錨(いかり)を上げ出帆する姿に見立てたのでした。春は、入学や卒業や転勤、引越しなど人生の岐路に立たされる季節でもあります。錨(いかり)をいっぱいに上げて咲くイカリソウたちは、そんな人たちに幸多かれと咲く花です。

次回は「東北の森の隠者 トウゴクサイシン」です。お楽しみに。

JADMA

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