タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

世界球果図鑑[その8]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その8]

2019/06/18

世界のマツ科マツ属は、目に見える形態的にではなく、葉の断面を顕微鏡で観察することによって二つの亜属に分類されています。それは、維管束が一つの単維管束(Strobus)亜属。維管束が二つの複維管束(Pinus)亜属です。単維管束亜属には、5針葉のマツが、複維管束亜属には2針葉のマツと3針葉のマツがそれぞれ分類されるのですが、東アジアには、人間の勝手な分類に従わない変わり者のマツがあります。

そのマツの球果は、アメリカのPinus亜属のAustrales(ミツバマツ)類のような下向きの刺を持つ特徴がありながら、鱗片(りんぺん)が丸く全開するSutrobus亜属(ゴヨウマツ)類の球果のような形状をしていています。この種は、単維管束亜属と複維管束亜属の中間に位置しています。

このマツが原生しているのは、中国中西部の山地です。華北平原からいきなり立ち上がるテーブルマウンテン状の岩山、河南省沁陽市にある神農山には、このマツの原生が数多く見られます。

このマツは、やや茶色がかった葉色と円錐(えんすい)状の樹形を持ち、栄養塩のない痩せた岩山で比較的大きな樹高であるために遠目でも確認することができます。

神農山は、中国中西部の山地に自生するこのマツの生息数が豊富でその数、1万6000本が確認されています。

No.19 ハクショウPinus bungeana(ピヌス ブンゲアナ)マツ科マツ属。種形容語のbungeanaは、ロシア人の植物学者Alexander Bungeの名にちなみます。ハクショウの大きな特徴の一つは、その木肌です。すべすべの肌を持ち、老成するとその樹皮は真っ白になるのです。神農山には、個体数が多いだけでなく樹齢1000年を越える500本余りの老木が見いだされます。

球果研究家の私は、どうしてもこのハクショウの松ぼっくりを手に入れたいと思ったのですが、身を乗り出すと目もくらむ断崖絶壁であり、命の危険を感じ収集することができませんでした。

野生のハクショウは、その気高い姿から、名所旧跡や寺院などに植栽されます。球果の入手は陝西省西安Xī‘ān (昔の長安)にある青龍寺においてかないました。

青龍寺は、西暦804年唐(中国)に求法に来た空海(弘法大使)が真言密教第7祖である恵果阿闍梨から密教の全てを受け継いだ場所です。 恵果阿闍梨(けいかあじゃり)には、1000人を超す中国、朝鮮半島、インド人を始めとするアジアの弟子が何年、あるいは、何十年と師事していたのです。しかし、阿闍梨は新参者の異国の沙門である空海の能力と十分な修業の跡を見抜き後継者に指名したのでした。さぞ、その人事には驚きと狼狽(ろうばい)、そして恨みつらみがあったのだと思います。

恵果阿闍梨は、空海に言いました。「長安に留まることをせず、早く日本に帰りなさい」そして仏法を広めるのだと。それは、ある意味、中国において真言密教の断絶を意味します。空海にすべてを授け、ほどなくして恵果阿闍梨は亡くなります。唐の時代長安は、世界一の国際都市であり恵果阿闍梨は、世界の人々を自らの同胞と考えていた世界思想を持っていたのだと思います。

西安は、洛陽の都からみて西です。南に南京あり、北に北京あり。東に東京があるのは奇遇です。平安の時代に来た遣唐使たちは、西安の大きさと圧倒的な石の都の威容にさぞ驚いたでしょう。現在の西安(Xī‘ān)は、中国西方に位置する交通の要衝であり、先端科学の集積地であり、国の研究機関や教育施設が集中する文教都市になっています。そして、外国人に対する寛容さも他の中国都市とは違う地域的歴史的特色の一つだと思います。

ハクショウの葉は、3本で束生する3針葉です。長さは5~7cm程度、新しく伸びた枝が赤茶色なので、葉の茂ったハクショウを遠くから見ると茶色がかって見えます。

ハクショウの球果は、2年をかけ成熟します。ほぼ球形の形をして大きさは5~6cm。球果鱗片(りんぺん)の先端部分には3針葉のマツ類のような下向きのとげがあります。

次回は「世界球果図鑑[その9]」です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.