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世界球果図鑑[その10]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その10]

2019/07/02

現在地球で最も繁栄している植物は、被子植物です。主に昆虫を花粉媒介者とした有性生殖で遺伝子に多様性をもたらし、種子を子房で保護し、さまざまな手段で後代に拡散させます。

球果を付ける裸子植物は被子植物の古いご先祖様であり地球に土壌が十分にできていない時代に生まれました。土は岩の風化物であったり火山の噴火物であったりします。土は落ち葉や枯れ枝、腐葉土などの腐植が混ざって命を育む土壌になるのです。土壌が育っていない時代に生まれた裸子植物たち、それを代表するマツ属にはつらい浮世を生き抜く工夫があったのです。

中国陝西省にある華山という険しい岩山です。花こう岩の一枚岩がほぼ垂直に千数百メートルもそそり立つ山です。土壌はありません。岩の割れ目に大きなマツが生えています。コケや小さな草本であればともかく、大きな高木になるマツがどうしてこのような険しい環境で生きていけるのでしょうか? 不思議でなりません。

水分に乏しく、土壌がほとんどない世界で生き抜くためにマツたちは、地中に菌糸を広範囲に伸ばし、どのようなものでも栄養源にして暮らす菌類と特別な関係を結びました。意外な話ですが、世界最大の大きさを持つ生き物は菌類(キノコ)といわれます。一つの胞子から発芽した菌糸がキロメートル単位の広がりを持つことがあるからです。

マツは、根に菌類と共生する菌根をつくり地中にネットワークを持つ菌類と共に生きます。菌糸は、広い範囲から集めた水分や栄養塩類をマツに渡します。マツは光合成でできる炭化水素を菌類に供給するようにして共生関係を結びます。

だから、マツたちは他の植物が生きていけないような厳しい岩山などの環境でも生育が可能なのです。この恐ろしい切り立つ断崖を持つ華山という山に生える植物のお話は別の機会にしますので楽しみにしておいてください。

No. 21 アブラマツPinus tabuliformis(ピヌス タブリフォルミス)マツ科マツ属。種形容語のtabuliformisは、テーブル状の形を意味します。分枝が垂直ではなく水平状に広がるパターンを示すために樹冠が平らに広がり樹形がテーブル状なります。

アブラマツは中国に固有のマツであり陝西省、河南省、内蒙古などの山地に原生します。クロマツのように雄大なマツなので、和名ではマンシュウクロマツともいわれます。それでいて幹はアカマツのように赤いので英語ではChinese Red Pineといいます。アブラマツは、最大で丈が30m、幹の直径は1mほどになる高木です。

アブラマツは特に樹脂を多く含む故の和名です。このマツは球果を多く付けるのですがクロマツやアカマツのように脱落せず枝に何年も付いたままです。

葉はクロマツと同じで2枚で束生する2針葉マツ、葉色は深緑色をしていて長さは10cm程度と短く中国名の別名は短葉馬尻松ともいいます。

アブラマツの球果です。ほぼ球形をしていて4~6cm程度で硬くしまっています。形状ではウンナンショウに似ているので類縁関係が気になるところです。

西安の大慈恩寺に立つ玄奘(げんじょう)三蔵の像です。中国で最も知られるお坊さんです。唐の時代にインドに仏教の原典を求めての旅は16年に及んだのです。持ち帰った経典は膨大で657部に及びます。玄奘はここ大慈恩寺でそのサンスクリット語で書かれた経典の漢訳に後の生涯をかけました。今に伝わる般若心経も彼の新訳とされています。

大慈恩寺 大雁塔です。この塔は唐の時代に造られ、玄奘が持ち帰った経典の原本が収められました。手前の樹木はアブラマツです。アブラマツは冬にも緑を絶やさない常緑性であり、艱難辛苦(かんなんしんく)に耐え忍び、節を変えないという東アジア的倫理観から旧跡や公園に好んで植えられています。

中国の陝西師範大学の前にアブラマツが植えてありました。岩山に孤高にして立つアブラマツは雄雄しく命の輝きを放っているように見えました。植栽されたマツの仲間は土壌があればそれなりに生きていきますが元気な姿に見えません。立ち枯れも目立っていました。マツ類は厳しい環境を生き抜く生命力を持っていますが、菌類との共生が命を全うするためには必要なのかもしれません。

次回は「世界球果図鑑[その11]」です。お楽しみに。

JADMA

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