小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
世界球果図鑑[その11]
2019/07/09
いよいよ、世界球果図鑑は、東アジアの日本に原生するマツ科マツ属に関しての順番が巡ってきました。日本に自生のあるマツ属は細かく分けると10種ほどあり、マツ属が豊富な国土ともいえます。まず、維管束が1つの単維管束(sutrobus)亜属であるゴヨウマツ類から始まります。
No.22 ヒメコマツPinus parviflora(ピヌス パルビフローラ)マツ科マツ属。種形容語のparvifloraは小さい花を意味します。ヒメコマツは亜山地性のマツで本州中部以南、四国、九州の標高1500m付近の尾根筋や岩山、急傾面などに原生します。元々の自生量は多くないと思われます。自生種の自然樹形は円錐(すい)形で山地の原生地においては20m以上には成長しますが、植栽された株は小柄にしか成長しません。日当たりがよいことと水はけがよい環境を好みます。
一般的にゴヨウマツといえばヒメコマツのことです。いうまでもありませんが、葉が5枚で束生します。葉の長さは短く3cm程度で密に付くので盆栽などに利用され珍重されます。
ヒメコマツの球果鱗片(りんぺん)は薄く、あまり強固ではありません。受精に成功した球果は2年かけて成熟し種を落とします。ゴヨウマツの葉には白く見える気孔帯という部分があり、青白く見えるのはゴヨウマツ類独特の景色です。
ヒメコマツの種を飛ばすと自然と球果を落下させます。拾い集めて観察すると、球果は3~5cmの大きさに落ち着きます。鱗片は完全に開帳しないで内側に巻き込むのを特徴とします。手で握ると壊れるほどもろい球果です。
No.23 キタゴヨウPinus parviflora var. pentaphylla(ピヌス パルビフローラ バラエティー ペンタフィラ)マツ科マツ属。変種名のpentaは数字の5を意味し、phyllaは葉を表します。キタゴヨウは、ヒメコマツの北方系変種とされ、日本の中部地方以北に分布します。
キタゴヨウは、ヒメコマツに対し全体のパーツが大きくなっています。葉が5枚で束生するのは当然ですが、ヒメコマツの葉の長さが3cmほどであるのに対し、キタゴヨウの葉5cmほどの長さがあります。
最も分かりやすいのは、球果の違いです。ヒメコマツの鱗片は、細く完全に乾いても内側にカールしているのに対し、キタゴヨウの鱗片は太く完全に開帳します。
球果の大きさもヒメコマツの3~5cmの大きさに対し、キタゴヨウの球果は6~8cmでヒメコマツの1.5倍の大きさになりsutrobus亜属独特の形状を示します。
ヒメコマツ、キタゴヨウの他に日本には、ゴヨウマツの名が付くマツが3種あります。1つ目は、チョウセンゴヨウ。これはすでに「世界球果図鑑[その9]」で紹介しました。2つ目はハッコウダゴヨウです。この種についての知見はいまだありません。そして、もう1つはヤクタネゴヨウです。
No.24 ヤクタネゴヨウPinus amamiana(ピヌス アマミアナ)マツ科マツ属。種形容語のamamianaは奄美大島を意味します。この種は鹿児島県の南西海上に浮かぶ屋久島と種子島にだけ特産する希少種です。本種は生息域が狭く、個体数が少ないため絶滅が危惧されているマツです。
葉の長さは7~8cmほどあり、かなり長い5針葉を束生させます。植物自身は中国中南部に生えるタカネゴヨウやカザンマツに似ていてPinus armandii(タカネゴヨウ)の変種とされ、Pinus armandii var. amamianaとされる場合もあります。それは、大陸と南西諸島が陸橋になってつながっていた時代に、日本に分布を広げたタカネゴヨウが海進期に屋久島と種子島に取り残されたという説によるものです。
ヤクタネゴヨウの球果です。ヒメコマツやキタゴヨウのような脆弱(ぜいじゃく)な鱗片ではなく、ガッチリした球果鱗片を形成します。
東アジアで最大の重さになるタカネゴヨウの球果とヤクタネゴヨウの球果を比べてみました。タカネゴヨウの球果は15cmほど、100gを超えますが、ヤクタネゴヨウの球果は6cmほどと小柄です。
次回は「世界球果図鑑[その12]」。日本を代表するマツである、クロマツについてです。お楽しみに。
変更になりまして、次回は「サギソウ」の話をいたします。(7月16日追記)