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夏の野生ラン ツレサギソウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

夏の野生ラン ツレサギソウ

2019/08/06

ランが属する単子葉植物は、双子葉植物にはない特徴をいくつか持っています。その一つは、花被が3数性を基本とすることです。例としてシンビジュームを見るとがくが3枚、花弁が3枚の基本構造になっているのが分かります。

単子葉植物の中でも特にラン科は、花粉を媒介する昆虫と共生関係を結び、その虫に適合した特殊な花被を進化させました。3つの花弁のうち1枚を唇弁といいますが、シンビジュームでは筒状になっていて距(きょ)がありません。サギソウ属では唇弁が開いていて距を持っていました。形状の違いは訪花昆虫の違いによるものです。

さて、奇妙なランが出てきました。西洋のお化けみたいな花をしています。ランの花は、それぞれとてもユニークでとっぴな花を咲かせます。この花の花被はどのようになっているのでしょうか?

花を拡大してみましょう。形状は奇妙ですが、3数性の花被をしています。上の写真に器官の配置を示しました。がくの一つである背がく片は、生殖器官のおしべやめしべを風雨から守るためにドーム型になっています。それにしても奇妙な唇弁です。長く筒状に見えて距のようですが、距は緑色で別にあります。黄色に見えるのは葯(やく)室に収まる花粉塊です。奥まったところに距の入り口があり柱頭もあります。

No.2 ツレサギソウPlatanthera japonica(プラタンテラ ジャポニカ)ラン科ツレサギソウ属。属名のPlatantheraとは、大きい葯を意味します。種形容語のjaponicaの意味はお分かりだと思います。 一見、白いサギが群れているように見えるのでツレサギソウというのです。ツレサギソウは東アジアの草原などに分布する地生ラン。日本では、北海道から九州まで広い範囲に生えます。

サギソウのように白いのでサギが群れているように見えます。ムレサギソウの方が表現的には正しいように思います。2つ並んで咲いている株があったのでフタリヅレサギソウとしゃれてみました。ツレサギソウの草丈は、30~40cmでした。葉は緩く波打ち黄緑色で先が尖った長楕円(だえん)形、数は5~6枚あります。

ツレサギソウを見つけた場所です。開花時期は夏。日当たりのよい、オギやススキ草原に咲いていました。背の高さは30cmぐらいでしょうか、他の場所では40cmぐらいの大物もありました。ツレサギソウは広い草むらの中に局在するように生息していたのです。

ツレサギソウ属の他の種を紹介したいと思います。今度は日当たりのよい草原ではなく、光がまばらに差し込む疎林でした。

No.3 オオヤマサギソウPlatanthera sachalinensis(プラタンテラ サチャリネンシス)ラン科ツレサギソウ属。種形容語のsachalinensisは、樺太(サハリン)を意味します。オオヤマサギソウは、台湾から日本の北海道を通りサハリン、南千島までの亜高山帯に生息します。どちらかといえば冷温帯の深山に生えます。

こちらの株は日当たりのよい林縁で見掛けました。オオヤマサギソウの開花時期も7~8月です。草丈は50cmほどに伸びるのですが、光沢のある葉を2枚ぐらいしか付けないことと、小さな花をまばらに付けるので背高のっぽのイメージです。

手に取ってみるとおおよその大きさが把握できます。草丈は十分な高さですが、花被は小さく薄い緑色で、それぞれのパーツはミリ単位の小ささなのです。

花被の器官を表示しましたので参考にしてください。オオヤマサギソウの花はどことなくクリオネに似ていています。側がく片が一生懸命に開き自分の存在をアピールしているようです。背がく片はドーム型、唇弁は長く伸び内側に曲がります。距は長く2cmほどに伸びるのでハチやアブ、ハエでは蜜に届きません。口吻の長い小型のチョウやガたちが花粉の媒介を担っているはずです。

ツレサギソウ属は、湿った場所を好む地生ランであり、花は小型で白、もしくは黄緑色をしていて唇弁は舌のように伸び、花の割に長い距を持ちます。この仲間は意外と大家族で世界に200種程度が知られています。日本でも各当地で分化し多くの種があります。皆さんは、夏の野山で奇妙な形をしたさまざまなツレサギソウ(プラタンテラ)属に出合うかもしれません。でも、もう大丈夫ですね。ツレサギソウ属の特徴は分かりましたネ。

次回は「夏の野生ラン チドリたち[前編]」です。お楽しみに。

JADMA

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