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秋の草原に咲く ヒメヒゴタイ[前編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

秋の草原に咲く ヒメヒゴタイ[前編]

2019/09/17

春の七草は、すてきな短歌のリズムで覚えやすく、物覚えの悪い私でもしっかりと分かります。しかし、秋の七草が何かと問われるとすぐには名前が出てきません。友人が“おすきなふくは”と覚えるのがよいといいます。
 お…… オミナエシ
 す……ススキ(オバナ)
 き……キキョウ
 な……ナデシコ
 ふ……フジバカマ
 く……クズ
 は……ハギ
なるほど、これなら秋の七草を記憶しておくことができます。

草原では、秋の七草たちがセンチメンタルな季節の到来を告げています。炎暑の夏を越えた安堵(あんど)感と、太陽の季節が終わったたそがれ感が入り交じった秋がやってきました。涼しい風が吹く草原には、4種類の七草たちが咲いていました。

ここは、日本最大のカルスト台地といわれる山口県の秋吉台です。台風が迫る空模様の中を歩いてみました。カルストとは、ドイツ語のKarstの直訳です。石灰岩でできた台地は、雨水や地下水などで浸食され、カルストと呼ばれる地形を作ります。

小高い丘に上り秋吉台を見回すと、すり鉢状のドリーネがたくさん見られます。カルスト台地に降った雨は、地下水となって台地の下に地下水脈を作ります。

地下河川は、さらに地中の石灰岩を溶かし、大きな空洞を地下に形成します。空間が大きくなると支えを失った地表が下に崩落して、すり鉢状に落ち込むのです。それが、ドリーネです。

日本は、雨が多く木々がよく育つ森の国です。森林が日本国土の本質なので、草原環境が維持されることは少ないのです。日本には秋吉台のような草原は多くありません。このような自然環境は、日本では希少な場所です。

そんな草原の片隅で珍しい植物と出合いました。ヒメヒゴタイです。初めて出合う植物ですが、すぐに名前は分かりました。擦り切れた図鑑に載っている写真を何度も見たからです。

希少な自然環境には、珍しい植物が見られます。
ヒメヒゴタイSaussurea pulchella(サウッスレア プルチェラ)キク科トウヒレン属。
このヒメヒゴタイを説明する際に幾つかの専門用語が必要となるので、キク科に関する植物学的な知識を整理しておきましょう。

キク科は、被子植物の中で最も多くの種を分化させ、最も繁栄している種属といえます。その数は、全世界で2万種以上と見積もられ植物の中で最大の陣容です。

キク科の特徴は、頭状花序(頭花)という一つ一つの花が集合体になった花序を持つことです。ヒマワリの場合、前述したように、頭花の周辺部には花弁状の舌状花と呼ばれる花が配置され中心部に管状花(筒状花ともいう)と呼ばれる花が集まっています。花の一つ一つのパーツが、おしべとめしべを持っていて頭状花序という集合花を形作ります。ヒマワリの場合、1000以上の花が集まって一つの頭花を作ります。

一つ一つの花を保護するのががくですが、頭花では、花の基部に鱗状(りんじょう)の葉が集合体となって保護する器官になっています。それを総苞(そうほう)といい、その一つ一つを総苞片といいます。写真は、ヒマワリの総苞です。イガグリのように葉の変形した苞が密集しています。

花の集合体である、頭状花序(頭花)。花弁のような、舌状花。管のような、管状花。花の基部にある花序の保護器官である、総苞。総苞を構成する、総苞片。
このあたりの用語が分かったところで、ヒメヒゴタイやトウヒレン属の話を進めていきます。

次回は「秋の草原に咲く ヒメヒゴタイ[後編]」です。お楽しみに。

JADMA

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