タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

秋の草原に咲く ヒメヒゴタイ[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

秋の草原に咲く ヒメヒゴタイ[後編]

2019/09/24

ヒメヒゴタイの漢字は、姫平江帯と書きます。この平江帯の意味は不明でよく分かっていません。ヒゴタイ(平江帯)という植物はヒゴタイ属の植物ですが、ヒメヒゴタイはトウヒレン属に分類されます。

トウヒレン属の植物には正しく属名が付く、セイタカトウヒレン、センダイトウヒレンなどがありますが、ヒゴタイなどの別属名が付く種が多いのです。アザミ属の名が付くトウヒレン属もあり、ホクチアザミ、ミヤコアザミ、キクアザミなどが知られています。このトウヒレン属の和名はキク科の中で無法状態と化しています。

改めまして。

ヒメヒゴタイSaussurea pulchella(サウッスレア プルチェラ)キク科トウヒレン属。属名のSaussureaは、18世紀のスイス人で近代登山の創始者ともいわれる自然科学者であるHorace-Bénédict de Saussureオラス=ベネディクト・ド・ソシュールに献名されています。登山家の名前を冠するトウヒレン属は高山で特殊化を遂げた植物として知られています。種形容語のpulchellaとは、愛らしく美しいという意味を持っています。

ヒメヒゴタイは、日本の広範囲に分布するのですが、種子で更新する二年草であり、草原環境が維持されない限り生育ができないので、個体数が少なく希少な植物になっています。東アジアでは、中国東北部や朝鮮半島、極東シベリアなどの草原に生息しますので、どちらかというと大陸起源の植物なのかもしれません。

これが、ヒメヒゴタイの総苞(そうほう)です。直径1cmほどの球形をしています。この総苞は、種形容語のpulchellaが示す美しさを持っています。

ちょっと待って、総苞は葉が密集した器官のはずと思った人は、前編をよく読んでいる人です。

ヒメヒゴタイの総苞片には花弁状の飾りが付いているのです。それを植物学的には付属物と味気ない名前で呼びます。花は葉が進化したものとされていますので、総苞片の付属物は、舌状花に進化する途中のものなのか、舌状花が退化したものなのかだと思います。

さらに秋が深まるとヒメヒゴタイの開花を迎えます。総苞から管状花だけが飛び出し咲いている姿は、どことなくアザミを連想させます。それもそのはず、トウヒレン属は、キク科の中でアザミ亜科という、キク科の下位分類に属しています。

ヒメヒゴタイの花に近づいてみました。付属物の付いた総苞から管状花だけからなる花が咲いています。

ヒメヒゴタイは、草原に生えるススキやオギたちに負けない背の高い植物です。葉は互生で上部ではヤナギ葉、下部では羽状に切れ込みます。花の色はラベンダーピンクのきれいな色をしています。それは、地味な花をつけるトウヒレン属の中では際立った花姿です。

この後は、他のトウヒレン属とトウヒレンの名前のもとになったヒレンという植物の知見です。

こちらは、センダイトウヒレンSaussurea sendaica(サウッスレア センダイカ)キク科トウヒレン属。種形容語のsendaicaは仙台を表し、東北地方の太平洋側に分布する日本の固有種です。丈は70cm程度で葉は互生で大きな卵形をして縁に鋸歯(きょし)があります。

センダイトウヒレンは、夏に緑色をしている総苞から白い管状花を咲かせます。ヒメヒゴタイやセンダイトウヒレンなど、キク科トウヒレン属の仲間は北半球に広く生息しますが、東アジアの高地に多くの種が分布します。

トウヒレン属のトウは、何を指すのかよく分かっていませんが、ヒレンというのは中国では飛廉と書き、風の神様のことです。植物としてはヒレアザミCarduus crispus(カルダス クリスパス)キク科ヒレアザミ属のことです。ヒレアザミの茎には、不規則な大きさを持つヒレがあり、先端は鋭く尖りとげになります。茎の先端には2cm程度の頭花がいくつか付きます。総苞片は反り返ります。この植物はアザミに似ていますが、ヒレアザミ(Carduus)属としてアザミ属と区別されます。

トウヒレン属、ヒゴタイ属、ヒレアザミ属、アザミ属などキク科近縁属間の和名は、どれがどれだかとても不明確になっていて、植物を知るときに不都合があります。こうした、混乱や無規則は命名規約が不明確な日本の植物名に多く見られるのです。「東アジア植物記」では、和名に加え、二名法(属名+種形容語)からなる学名を表記して、植物の知見としていますのでご参考になさってください。

次回もお楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.