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ヒガンバナ[前編] シナヒガンバナ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ヒガンバナ[前編] シナヒガンバナ

2019/10/01

群馬の片田舎を車で通りかかったとき、通常の赤い花色を付けるヒガンバナの中に、時折、混ざる妙な花色を見つけ車を止めました。おかしな花色は、一つだけでなく、あっちの花もこっちの花も、いつも見かけるヒガンバナと、ちょっとばかり変わっているのでした。

時は9月の上旬であり、ヒガンバナLycoris radiataの開花にはまだ早い時期です。あのヒガンバナの赤色を基本にした集団の中にピンク、サーモン、オレンジ、バイカラーなど、見たことのないカラーバリエーションで花が咲いています。

開花が早いことと花色以外は、普段見るヒガンバナに違いはありません。地元の人に事情を聞くとヒガンバナを3万球ほど地域の花おこし、町おこしに購入し、植え付けたというのです。納入業者は、中国からLycoris radiata(ヒガンバナ)の球根を仕入れ、町に納めたそうです。

よく辺りを見回すと、さらに開花の早い株があり、子房が膨らみ種ができているようです。さまざまな形質は、遺伝子の交換によって生まれた様子です。日本に生えるヒガンバナは、3倍体であり不稔性とされ、栄養繁殖の分球で増えますので親と同じ形質、花色です。しかし、この実生で増える性質は明らかに日本のヒガンバナとは違うものです。

以上を総合して、私はこの奇妙なヒガンバナをシナヒガンバナと結論づけました。この種は、コヒガンバナという呼称もあり、中国大陸、揚子江周辺省の広範囲に原生し半日陰の湿った場所に生えるLycorisです。

シナヒガンバナLycoris radiata var. pumila(リコリス ラジアータ バラエティー プミラ)ヒガンバナ科ヒガンバナ属。種形容語のradiataは、放射を意味します。変種名のpumilaとは、背が低い、小さなという意味を持ちます。シナヒガンバナは、両親から一組の染色体を受け継いだ2倍体と呼ばれる基本的な種であり、種を付けることが難しいヒガンバナ(3倍体)の母種です。にもかかわらず、ヒガンバナがLycoris radiata でシナヒガンバナがその変種var. pumilaとは、本末転倒だと思います。

赤色の花だけからなる、ヒガンバナを見慣れている私たちにとっていかにシナヒガンバナが多様であるのか、いくつか紹介します。

オレンジの個体です。花被にフリンジが少なくネリネみたいな花姿です。

ライトオレンジ。こんな色、見たことがありますか?

ウルトラ ライトオレンジといいますか、花被の中心が濃く、周辺部の色が薄い個体。

サーモンカラーオレンジの個体。

オレンジバイカラー、花被の先端の色が白く抜ける配色です。

この花に至っては、奇抜で宇宙人的です。花色はオレンジとホワイトのバイカラー。おしべ、めしべが通常のヒガンバナよりかなり長く奇妙です。

アイボリーホワイトの個体。シロバナヒガンバナとは違います。

シナヒガンバナは、赤色が優勢花色であることは間違いありません。しかし、集団に劣勢花色が出現すると、それらの間で花粉のやりとりが生じ優勢花色以外が出現する集団になったと推定されます。

シナヒガンバナは、実生で増える可能性と多様性を示しています。それぞれの個体で種を採り、増やしていくだけでさまざまなLycoris radiata の品種群が出来上がるはずです。

次回は「ヒガンバナ[後編]」です。お楽しみに。

JADMA

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