小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
世界球果図鑑[その16]
2019/11/19
世界で最も希少なマツの一つ、それも北米西岸に生えます。その名は、ピヌス トーリーヤナPinus torreyana。その種形容語torreyanaは、悠久の榧樹(カヤ)樹で紹介した、 19世紀のアメリカの植物学者John Torrey(ジョン・トーリー)にちなみます。それは、どんなマツで、どんな球果を付けるのでしょうか?
No.37 ピヌス トーリーヤナPinus torreyanaマツ科マツ属。このマツのことは、日本ではあまり知られていませんが、原生地の北米では、 最も珍しいマツとされています。南カリフォルニアのサンディエゴ周辺に固有のマツであり、野生の株はわずかに20本とされています。針葉は長く20cm以上、葉は5針葉、葉の色合いはゴヨウマツのそれです。
ピヌス トーリーヤナは、南カリフォルニアの海風が吹き付ける海岸の灌木林の乾燥した土地でゆっくりと生育します。原生個体数が少なく、生育するエリアが狭いことで原生地では絶滅が危惧されています。しかし、原生地では絶滅の際にあっても、種が人間によって海を渡り増やされ、他国に植えられるケースがあります。この木は、オーストラリアのブリスベンの公園に植栽されていました。異国のオーストラリアやニュージーランドは、この種の生育に適しているらしく公園植栽のマツにも使われています。
ピヌス トーリーヤナの球果はとても堅牢です。5枚で束生する5針葉松ですからストロバス亜属に属するのでしょうが、球果から見る形状は、3針葉松のサビンマツPinus sabiniana に似ています。
球果の計測では、長さ12cm前後、幅10cm前後、鱗片(りんぺん)が厚く重量感があります。重さは、乾燥したこの大きさで100g程度。これが、知る人ぞ知るピヌス トーリーヤナの球果です。希少な球果が手に入りました。
No.38 ピヌス ダグラシアナPinus douglasianaマツ科マツ属。このマツについての資料や文献が少なく同定にあまり自信がないのですが、あえて「世界球果図鑑」に記録させてください。新しい知見ができたら更新します。ピヌス ダグラシアナ、英語ではDouglasiana pine(ダグラシアナパイン)は、メキシコ西部の山地に固有のマツです。高木であり、樹皮が赤く不規則な鱗状に割れています。葉はフサフサと長く25cm程度、葉は5枚で束生しているのでゴヨウマツ類かと思うのですが、球果の形態が違います。
種形容語のdouglasianaは、この種を記載したMaximinoMartínez(マキシミノ マルチネス)を支援したMargaret Douglas(マーガレット・ダグラス)に献名されています。私が見た球果の大きさは5~9cm、どれも閉じていてやや湾曲しています。この球果は、乾燥しても開く様子はなく葉は5針葉でした。しかしゴヨウマツ類の球果とは程遠い形状なのです。今までのマツ分類の枠に収まらないのかもしれません。
以前、世界球果図鑑[その7]ではマケドニアマツPinus peuse(ピヌス ペウセ)の球果だけを紹介しました。今回はその木の情報を詳しくお知らせします。
そのマツは、ヨーロッパとアジア、アフリカの文明が交差するバルカン半島に固有のマツです。英語ではBalkan pine(バルカンパイン)といいます。この木は古木で樹皮色は赤く四角の亀裂が入っています。
No.39 マケドニアマツPinus peuse(ピヌス ペウセ)マツ科マツ属。種形容語のpeuseとは、古代ギリシャ語でマツという意味です。このマツは、バルカン半島の旧ユーゴスラビア、マケドニアなどの山地に生息します。樹形は垂直に伸び、嵐に耐えます。30m以上に育つ高木であり、樹脂を多く含む材は耐久性があり有用とされます。
マケドニアマツの針葉は5枚で束生する5針葉松、つまりゴヨウマツ類でストロバスstrobus亜属に属します。葉の長さ7cm程度、葉幅が細く繊細、葉裏の気孔帯が白く全体として葉が青緑に見え美しいマツです。観賞用の樹木に適性を感じます。
これが、マケドニアマツの球果です。ゴヨウマツ類らしい形状をしています。私がコレクションした球果の重さは5~15g、軽い割に鱗片は分厚く比較的堅牢にできています。縦方向の長さは5~7cm、種子は1.5cmほどの長さ、種には翼の痕跡がありました。
次回も「世界球果図鑑[その17]」です。お楽しみに。