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世界球果図鑑[その17]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その17]

2019/11/26

文明の交差点に生える、マケドニアマツは低山から亜高山に生える五針葉松でした。さらに高山になると厳しい自然環境から背の高い樹木が生えることは難しく、多くの樹木は低木になるか地を這います。世界の高山にはそんな環境に適応したマツが生えています。

No.40 ハイマツPinus pumila(ピヌス プミラ)マツ科マツ属。種形容語のpumilaとは背が低くて小さなという意味です。ハイマツは、東アジア北部の大陸などに分布の中心があり、日本では北海道や本州中部以北の高山に生えます。ハイマツの育つ環境から上には高い木が生えることができない環境があります。

ハイマツは、最も耐寒性が高いマツの一つです。この植物は氷河期に日本を南下し分布域を広げ、温暖期に北に退いた際に高山に残存した、氷河期残存種と考えられています。高山では地面を這うハイマツですが、亜高山帯に生えるハイマツは低木になります。

ハイマツの葉は5枚で束生するストロバスstrobus亜属ゴヨウマツの仲間です。葉の長さは短く5~6cmぐらい、葉裏の気孔帯が白いので他のゴヨウマツ類同様に青白く見えます。

ハイマツの球果は、花が咲いてから2年かかり成熟します。長さは2.5~4cmぐらい、色は茶色でがっしりしていて種鱗は堅く丈夫です。球果の印象は小さなチョウセンゴヨウPinus koraiensisという印象です。

日本最大の球果を付けるチョウセンゴヨウ(写真左側)大きさ15cmと、ハイマツ(写真右側)大きさ4cmと比較しました。ハイマツにも球果の割には大きな種子があり、チョウセンゴヨウ同様に翼はありません。

No.41 ムゴマツPinus mugo(ピヌス ムゴ)マツ科マツ属。別名のモンタナマツとかスイスコウザンマツとも呼ばれます。イタリア語で山をmontagnaといいます。種形容語のmugoもまた、イタリア語由来です。このマツはヨーロッパ南西部から南東部の高地に原生する低木状のマツです。高山に生える生態的な立場からいうと、日本にも生えているハイマツと同様の地位にあります。

生態系の位置は同じでもハイマツとムゴマツは、遠い親戚という関係です。ハイマツは五針葉松であるのに対し、ムゴマツはクロマツやアカマツのように2針葉で束生するマツです。残念ですが、いまだ球果の入手には至っていません。

マツ科の球果植物は、マツ属以外に10属ほどありますが、マツ属の球果紹介は、私が知る限りにおいて終了しました。まだ、ページにゆとりがありますので、この記事でもう一つ別属についても触れておきます。

シラカバと一緒に混在しているのがカラマツです。

No.42 カラマツLalix kaempferi (ラリクス ケンフェリー)マツ科カラマツ属。

やっと、この「世界球果図鑑」にもマツ属以外の球果が登場しました。カラマツ属は、北半球の寒帯、亜寒帯と中緯度の山地に10種以上が生息していますが、日本にはこのカラマツ1種が固有種として原生します。日本での原生地は、本州中部の亜高山帯です。

カラマツの種形容語kaempferiは、ドイツ人医師の探検家Engelbert Kämpfer(エンゲルベルト ケンペル)に献名されています。彼は、10年に及ぶ遠征の果てに日本にたどり着き、日本誌を記述しました。カラマツは、日本に自生するマツ科の中では唯一落葉するマツであり落葉松ともいわれます。

冬枯れのカラマツ林の中を歩くと、カラマツの球果がたくさん落ちています。カラマツの球果は、何年も枝にとどまりますのでフレッシュな球果は少ないのです。通常、大風や嵐などがあると、小枝に付いた状態で落下してきます。

カラマツの球果はとてもキュートです。大きさは2~3cm、ときたま大きな球果が落ちていますが5cmを超えることはありません。カラマツの球果は軽量で種鱗は薄く膜状になっていて、先端が外側に反り種を飛ばします。種の大きさは全長で1cmぐらいです。

次回は「世界球果図鑑[その18] モミ属」です。お楽しみに。

JADMA

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