タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

世界球果図鑑[その18] モミ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その18] モミ属

2019/12/03

球果を集める場合、マツ科のモミ属は悩みのタネの一つです。世界の北半球に多くの種があり日本に広く自生があるのに、その球果は収集が困難なのです。それはこの木が高木であり、地上から遠い梢の先に球果を付けること。そして、その球果は枝先でパラパラに分解して完全な形で地上に落ちることがないからです。

樹種としては、マツ属やトウヒ属と和名の混用もありその姿が曖昧でもあります。今回は、モミの球果とその樹種について紹介していきます。

遠目で見て、美しく格好いい樹形の常緑針葉樹。それがモミです。輪生する枝は、上行から水平に広がり見事な円錐(すい)形を作ります。樹高は、40m程度になる高木です。

No.43 モミAbies firma(アビエス フィルマ)マツ科モミ属。種形容語のfirmaとは、強いしっかりしたという意味です。モミの外観は、種形容語の通りたくましいのですが、材は軟らかく折れやすいので、大木としては短命とされます。樹皮は灰色で割れ目が生じます。

モミは、九州の照葉樹林帯~東北の落葉広葉樹林帯まで広範囲に分布し、さまざまの木々たちと混生して生息します。海岸林では見たことがなく、丘陵地から低山に生える木です。モミ属は、日本にモミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、トドマツ、合計5種があり、それぞれが標高と地域ごとにすみ分けをしています。

群馬県吾妻郡中之条町には、短命といわれるモミにあって長寿のモミがあります。
囀(しゃべり)石のモミ
推定樹齢 800年
樹高   37m
幹回り  7~8m
著者と比べて木の大きさが分かると思います。

囀石のモミは、落雷によって半身が焼け、脱落していました。現在は、半身の維管束だけで生きている巨木です。体を支える骨格がないのに、風雪に耐え生存ができているのは、この場所が災害が少ない恵まれた地勢なのでしょう。「巨木の生える地には、天災は少ない」といわれます。

めったに手の入らないモミの球果を付けた枝が、他の木に引っ掛かっていました。ジャンプ一番。球果を自分の手中に収めたのですが……。

球果を手にした瞬間の嫌な予感は現実でした。モミの球果は、見事にバラバラになってしまいました。それぞれの鱗片(りんぺん)には栄養価の高そうな種が付いています。

モミの球果を手に入れるには、執念と幸運の両方が必要です。なぜならば、地上30~40mの枝先でモミの球果は、自然分解して落ちてくるか、リスなどの動物が球果を壊し種を食べ散らかしてしまうのです。成熟した球果が嵐などで枝ごと地に落ちてくる場合のみ、こんな球果と対面できます。

手に入れた球果を乾燥させると、今にも種鱗がほどけ分解しそうな危うさがある球果になります。分解すると二度とその姿を復元することはできません。一枚一枚の種鱗の先端には、薄い皮膜のような尖りがあり、表面に突き出すのでモミ独特の形状になります。

毎年、クリスマスが近づくとサカタのタネ ガーデンセンター横浜では、クリスマスツリー用にモミの木が入荷します。クリスマスツリーにモミを使わなければならないという約束事はないので、それぞれの国では実情に合わせてトウヒ属やヒノキ属なども使われます。お店では、ウラジロモミAbies homolepis(アビエス ホモレピス)が使われます。

写真はモミのディテールです。葉は通常らせん状に付き葉身は2~3cmほどあります。写真では分かりませんが先端が鋭く、2裂していて尖り、触れると多少痛みを感じます。

こちらがウラジロモミです。モミに対し葉身が短く1.5~2.5cmと小柄なこと、名前の通り葉裏が白く見えるのです。ウラジロモミの分布範囲はモミとほぼ同じなのですが、モミが低山から1000m程度の標高の湿った場所に生えるのに対し、ウラジロモミは亜高山帯に生えるのです。

モミには、こんな話があります。
東京には代々木(よよぎ)という場所があります。音読みすれば代々木(ダイダイボク)です。この地には、代々のモミの大木があったとされます。伝承によれば、幹回り10.8m、樹高50m以上。それは、江戸時代の浮世絵にも描かれ「代々木村の代々木」とされました。今に残っていないのは残念なことです。短命はモミの木の宿命なのでしょう。

次回は「世界球果図鑑[その19] ツガ属」です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.