小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
世界球果図鑑[その19] ツガ属
2019/12/10
私たちが針葉樹と思っている植物の中には、針葉に比べ葉が幅広、扁平になる、線状葉という葉を付けるものがあります。種数では少数派ですが、線状葉を付ける植物は、マツ科の中で属数では多数派です。線状葉は独特なので、その違いを理解すると種や属の違いが分かります。
線状葉の例です。左側がウラジロモミAbies homolepis(アビエス ホモレピス)です。葉身の長さが1.5~2.5cmあり、よく見ると先端が2つに割れ、先が尖りますのでツンツンとした感じです。それからモミ属の特徴の一つですが、葉の付け根は吸盤のように丸く枝に付いています。
一方、右側のツガTsuga sieboldiiの葉身はさらに短く1~2cm。長い葉と短い葉が混在します。葉の先は丸く2つに分かれているので、葉を触った感じが優しいのです。さらに葉の付け根には短い葉柄があります。このように、線状葉は種属ごとに違いがあります。
No.44 ツガTsuga sieboldii(ツガ シーボルディー)マツ科ツガ属。種形容語のsieboldiiは、シーボルトに献名されています。漢字で栂(つが)と書き、日本で作られた国字とされますが、その語源に納得のいく説明は見当たりません。
ツガは、日本の照葉樹林帯と同じ条件の山地に生える常緑高木です。幹は直立し、樹皮は灰褐色で縦に裂けます。樹高は20~30mほどになると思います。世界のツガ属は、温暖で夏が涼しく、乾燥ストレスのない環境を必要とし、東アジアと北アメリカに隔絶分布していて8種ほどが知られています。日本にはツガとコメツガが生息しています。
ツガを下から見上げると、葉裏の気孔帯が白いので青白く見えます。枝先になにやら小さな球果が下向きにたくさん付いています。
枝先を拡大してみるとこんな感じです。球果は茶色で丸い形状です。モミとは全く見た目が異なる球果です。
大きなツガは、球果をたくさん付け自然落下させるので、木の下に行くとこんな球果が落ちています。葉や幹、木姿でツガが判別できなくても、球果を見れば一目瞭然です。
ツガの球果は2~3cmの大きさ、色は薄茶色で鱗片(りんぺん)は薄く革質で軽くできています。水分を含ませると写真の右側のように砲弾状になります。種は翼部分を入れて1cmほどの大きさがあり、鱗片の隙間から放出されます。
ツガは、東アジアの一部に生息していますが、日本の固有種といってもいい存在です。これから紹介するコメツガは、純粋に日本の固有種です。
コメツガは、ツガより北にそしてツガより標高の高い場所に生えます。私の経験では、亜高山帯の森林限界近くに生息しているのを見かけました。
No.45 コメツガTsuga diversifolia(ツガ ディベルシフォリア)マツ科ツガ属。種形容語のdiversifoliaとは、不同様の葉を持つという意味です。コメツガは他のツガ属同様に、枝に短い葉や少し長い葉を付けるからです。
コメツガの葉身はツガよりさらに短く、長短あわせて枝に付きます。短いものでは1cmに満たない小ささです。当然、球果も小型です。一番左側の球果がツガ、残り4つがコメツガです。大きさは1.5~2cmです。葉や球果が小さいのが米栂(コメツガ)といわれるゆえんでしょう。
No.46 カナダツガTsuga canadensis(ツガ カナデンシス)マツ科ツガ属。種形容語のcanadensisはカナダという意味です。北アメリカ東岸北部に自生し、木材として重要な種です。葉の大きさなどはコメツガに似ています。
写真は、カナダツガのペンデュラというしだれ性の品種です。大木になりそうにはないので、このツガなら庭に植えても大丈夫でしょう。右上の写真の球果は、上段がカナダツガ、下段がカナダツガのペンデュラです。大きさは、それぞれ1.5~2cmでした。
次回は「世界球果図鑑[その20] 」です。お楽しみに。