小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
世界球果図鑑[その21] ユサン属ほか
2019/12/24
マツ科で線状葉を付ける属がもう一つあります。それは、油杉(ユサン)属です。マツ科なのにこれもスギといわれます。私は声を大きくして言いたいのです。
スギではありません。
昆明植物園の先生と雲南省楚雄イ族自治州の獅子山を登山中に大きな針葉樹を見つけました。
獅子山は、亜熱帯モンスーンの地域に当たり標高は2419m。全体の植生は、照葉樹をはじめとする混生林です。
No.52 ウンナンユサン(Yúnnányóushān)Keteleeria evelyniana(ケテレリア エヴリニアナ)マツ科ユサン属。中国南部から東南アジアの日当たりがよく、温暖で過度に乾燥しない環境、低山から亜高山帯に生息する常緑高木で樹高は30~40mになります。
ウンナンユサンの球果です。革質で長さ20~45cmほどの円筒形、ユサン属はこのような球果を上向きに付けます。
International Union for Conservation of Nature(国際自然保護連合、通称IUCN)は、この種は生存に脆弱(ぜいじゃく)性がある希少種としています。
No.53 ユサン(アブラスギ)Keteleeria davidiana(ケテレリア ダビディアナ)マツ科ユサン属。ユサン属は、日本に原生はなく、中国大陸の亜熱帯地域や台湾などの低山混生林に生えます。一見、モミみたいな風情があり、シマモミという別名があります。日本の平暖地でも栽培ができ、もっと身近で見たい樹木の一つです。
ユサンの球果が梢に付いています。上向きに付くのはモミ属のようですが、球果は樹上でバラバラに分解せず、鱗片(りんぺん)の間から種子を飛ばし地上に大量に落ちてきます。
葉は油でテカテカに光っていて、脂ぎっている感じです。そのあたりが油杉といわれるゆえんなのでしょう。形状は線状で3~5cmほどあり幅広です。葉は柔らかくしっとりしています。
マツ科で幅広の葉を付ける球果植物の話はこれで終わります。再び針のような葉を付けるマツ科の植物を紹介していきます。
古代に栄えたフェニキアは、レバノンスギで造った船に乗って地中海一帯に繰り出した交易の民と世界史では教えています。フェニキアは現在のレバノンにあったとされる国家でした。レバノンの国旗には、レバノンスギが描かれています。
N0.54 レバノンスギCedrus libani (セドルス レイバニ)マツ科ヒマラヤスギ属。種形容語のlibaniは、レバノンを表します。中東一帯の高地に原生します。古代には大森林があったと記録されますが、伐採利用で消失してしまいました。資料で見る限り、レバノンスギは絶滅の危機にあるように思えます。この植物もまた、スギではありません。
レバノンスギは、ヒマラヤスギと区別するのが難しいと思いました。ヒマラヤスギ同様に大きな木です。短枝から出る針葉がヒマラヤスギに比べると短く球果も全体的に小ぶりです。しかし、レバノンスギは、ヒマラヤスギのバリエーションかもしれないと直感しました。
左が一般的なレバノンスギCedrus libani の球果、右が一般的なヒマラヤスギCedrus deodaraの球果です。球果の大きさ以外に区別ができません。球果の大きさは、その樹木の成熟度合い、遺伝的な形質、栄養状態で大きく変わるのです。私は、レバノンスギの歴史的な価値、生物的な存在意義に疑義を唱えるつもりはありませんが、木に触れ、球果を検証して思った感想です。
No.55 ヒマラヤスギCedrus deodara(セドルス ディオダラ)マツ科ヒマラヤスギ属。ヒマラヤスギに関しては、この記事でも取り上げていますので多くを語る必要はないと思います。このページのために、今年落ちたヒマラヤスギの球果を集めてリースにしてみました。その姿はシックなバラのようです。
No.56 アトラスシーダCedrus atlantica(セドルス アトランチカ)マツ科ヒマラヤスギ属。種形容語のatlanticaは、アフリカ大陸最北部にそびえるアトラス山脈にちなみます。名前のとおり、その山地に生息します。ヒマラヤスギに比べて葉身が短く小型です。まだ、球果を見たことがありませんが、ヒマラヤスギを小型にした球果だろうということは容易に推測できます。
皆さん、今年一年ご愛読いただきありがとうございました。「世界球果図鑑」はまだ続きますが、来年新春からは、別シリーズを立ち上げます。題して、「東アジア植物記 Plant of Xi'an」です。そこは、古代中国の王朝が置かれた都市です。古くは長安といいました。ご期待ください。
次回は「Plant of Xi'an」です。お楽しみに。