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連載

Plant of  Xi’an 華山[その1]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Xi’an 華山[その1]

2020/01/07

皆さん、新年を迎えいかがお過ごしでしょうか?
今年も世界の平和と植物たちの安寧を願いたいと思います。
2014年5月から始まったこの連載も、今年で7年目を迎えます。見たことのない植物と出合うとき、いつもドキドキと胸が高鳴ります。それは、どんな名前でどんな生き方をしているのでしょうか。東アジアの植物たちとの出合いは果てがありません。「世界球果図鑑」はまだまだ続きますが、少しお休みして新年から「Plant of Xi'an」という新シリーズを立ち上げます。

長安(現・西安 Xi'an)は、中華と異民族を分ける際にあり、西への防御を固める軍事要塞でもありました。その城壁の規模は驚くばかりで、高さは12mですが、その厚さが18mもあるのです。それは、近代戦車をもってしても突破できないと思われます。周囲は約14kmあり城壁の上を自転車でサイクリングできる規模です。

中国の古代王朝が都にしてきた長安は、中華文明の中心地として二千数百年の歴史を刻んだ古都です。中でも唐代には世界最大の都市として栄え、阿倍仲麻呂、最澄、空海などの遣唐使が訪ね暮らした町で、シルクロードの拠点となりました。今でも西域への窓口であることに違いはなく、中国西部最大の都市です。

私が西安を訪れた目的はただ一つ、中国中西部の植物相が知りたかったからです。学生街の安ホテルに宿を取り、食費を節約するため大学前の屋台で夕食を取っていると、女学生が隣に座りました。「どちらから来たの」と尋ねるので「当ててごらん」と言うと、私の顔をマジマジ見て、「シンガポール」と言うのです。「エー マジか」と思いました。日本人に見えないのはショックです。「我是日本人(Wǒ shì Rìběnrén)」と言うと「オー ジャパン」と大笑い、どこの国でも若者は屈託がありません。西安は、歴史的な世界都市です。異邦人に対して物おじしない態度と寛容さがこの都市の特徴です。

西安から洛陽の方向に132kmほどの場所に華山Huà Shānという、中国五名山(五岳)に数えられる岩山があります。そこは、入山に生命保険の加入が義務付けられています。実際、年に何人かは滑落によって命を落とすという山です。

華山の山塊は、硬い花崗岩でできていて、風雨の浸食でツルンとした冷たい岩肌が露出しています。最高峰は2154m、全ての峰が切り立っていて1000m以上の絶壁が連なるのです。私は掛け軸の山水画を連想しました。

華山を下から見上げたり、上から見下ろすだけで足がすくみ、ゾクゾクと身震いが起きます。高所恐怖症ではありませんが、肝の座りが悪いのです。そんな環境でも植物たちは、岩の割れ目や岩棚に根を下ろし生育しているのです。わずかな滞在時間でしたが、目に付いた華山の植物を紹介していきます。

No.1 コデマリSpiraea cantoniensis(スピラエア カントニエンシス)バラ科シモツケ属。種形容語のcantoniensisは中国広東省という意味です。なじみ深い和名で私たちの身の回りに植えられているコデマリは、日本に原生がありません。種形容語が示すように中国中南部の日当たりのよい崖地に生える植物だったのです。

コデマリは人間の背丈ぐらいの灌木です。決まって急な斜面に生えていました。しなやかに枝を下垂する花姿は、崖から垂れ下がるためだったのです。華山のほか、西安近郊山地の谷あいの岩だらけの斜面には普遍的にコデマリの原生を見ることができました。その花は、遣唐使たちの目に留まらないはずはありません。コデマリは、古い時代に中国から日本に持ち込まれた植物だったと思われます。

華山北峰の頂上付近から見下ろすと、こんな景色の中に白い花が咲いています。

Exochorda giraldii(エキソコルダ ギラルディー)バラ科ヤナギザクラ属。樹高3mほどの落葉性の低木です。河北省から浙江省付近の低山~亜高山帯に生息します。日本にはこの属の原生はありません。

Exochorda(エキソコルダ)というとなんだか分からないと思いますが、リキュウバイ(利休梅)の仲間というとお分かりいただけると思います。Exochorda 属はpearl bushといわれ、清楚(せいそ)な白い花が茶花に好まれますが、千利休との関係はないと思います。

Exochorda 属は、中国からトルコまで広く分布していて、いくつかの種が記載されています。Exochorda giraldii は、紅柄白鹃梅とされ、花弁が細長く、枝が赤いなどで母種のリキュウバイExochorda racemasa(エキソコルダ ラセモサ)と区別されています。しかし、英語の論文を見ると、それらの種は、地方型であって単一の種だという説得力のある見解があります。華山のフローラは次回に続きます。

次回は「Plant of Xi’an 華山[その2]」です。お楽しみに。

JADMA

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