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Plant of Xi’an 華山[その2]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Xi’an 華山[その2]

2020/01/14

先週に引き続き、華山に生える植物たちを紹介していきます。 華山は、花崗岩の岩山です。土壌がない尾根筋や岩の割れ目には、この地方に固有の裸子植物である3種類のマツが見られます。

No.2 カザンマツ(華山松)Pinus armandii(ピヌス アルマンディー)マツ科マツ属。和名ではタカネゴヨウと呼ばれますが、中国の名は華山の名を冠するカザンマツ(Huashansong) です。この植物は、土壌のほとんどない岩山である華山を代表する植物であるといえます。

その他、中国に固有のマツを2種類見ることができます。それは、

No.3 アブラマツ(油松)Pinus tabuliformis(ピヌス タブリフォルミス)マツ科マツ属。写真の右手前。

No.4 シロマツ(白松)Pinus bungeana(ピヌス ブンゲアナ)マツ科マツ属。写真の左。

いずれも見事な古木で数多く生息しています。

華山周辺は、乾燥気味の土地柄で雨は東京の3分の1程度しか降りません。しかし、雲が峰々に当たると雨になり、山地には比較的多くの雨が降ります。水が集まる谷筋には、被子植物の樹木などが生息します。

No.5 ヒトツバタゴChionanthus retusus(キオナントゥス レツスス)モクセイ科ヒトツバタゴ属。属名のChionanthus古代ギリシャ語で雪の表記であるἡ χιώνを英語読みしたchion(雪)と ラテン語anthos(花)の合成語です。雪の花のイメージでしょうか? 種形容語のretususは、小さな凹型がある、浅い切り込みがあるという意味ですが、どこを指す形容語かよく分かりません。

ヒトツバタゴ属の多くは、熱帯地方に生息する常緑種です。雪が積もる地域に分布する落葉種は、私が知る限り2種類で、中国、台湾、朝鮮半島、そして日本に原生するヒトツバタゴと、北アメリカ東岸に分布するアメリカヒトツバタゴだけです。 隔絶分布する属種は、今まで何度も書いてきましたが、遠い昔繁栄した種が各地で絶滅した結果、そのように離れて暮らすようになったと考えられています。

ヒトツバタゴは、大きくなると10m以上に生育する高木の仲間ですが、華山では栄養塩類が不足しているのでしょう。灌木程度の大きさの株しか見かけませんでした。ヒトツバタゴは、珍木でナンジャモンジャノキとして有名です。日本での原生地は木曽川の中流域と対馬に離れ原生していて天然記念物扱いです。

アメリカ大陸の温帯性のキオナントゥスは、北アメリカ東部に生息します。アメリカヒトツバタゴ Chionanthus virginicus(キオナントゥス バージニカス)。種形容語のvirginicusはバージニア州にちなむものと思われます。ヒトツバタゴに比べ一回り葉や花被が大柄です。

中国の岩山には、よく丁香(チョウコウ)と呼ばれるモクセイ科ハシドイ属が見られます。華山にも急な崖にへばり付いていました。花崗岩のベージュ色と木々の葉緑、そして白花の多い、単調な色調の中に色栄えがよい植物です。

No.6 チョウコウ(丁香)Syringa spp.(シリンガ)モクセイ科ハシドイ属。中国ではチョウコウを30種以上も区別しますが、どれがどれだか正直分かりません。手に取って差異を認識する距離にありません。一寸先は絶壁の地であり、邦人の遭難者はしゃれになりません。

No.7 コルクヴィッチア アマビリスKolkwitzia amabilisスイカズラ科ショウキウツギ属。日本ではショウキウツギとも呼ばれます。属名のKolkwitziaは、ドイツの植物学者Richard kolkwitz(リチャード コルクビッツ)に献名されています。種形容語のamabilis とは、愛らしい、魅力的という意味です。

ショウキウツギは一属一種の落葉性低木。枝が柔らかくしだれるように花を咲かせます。そのような性質は、コデマリ同様に斜面に適応した結果だったのだと思います。この植物は、湖北省、陝西省、河南省などの中国中西部の山地にまれに生える植物なのですが、その美しさから広く世界中で栽培されています。

華山には、No.8 サンザシCrataegus cuneata(クラタエグス クネアタ)バラ科サンザシ属の原生もありました。世界中で広く栽培されるサンザシは中国の野生サンザシを改良したものです。

もう少し華山のフローラは続きます。

次回は「Plant of Xi’an 華山[その3]」です。お楽しみに。

JADMA

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