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Plant of Xi’an 華山[その3]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Xi’an 華山[その3]

2020/01/21

「東アジア植物記」では、中国五名山(五岳)のうち東岳(泰山)、中岳(崇岳)を紹介してきました。そして今回は西岳とされる華山の植物を紹介しています。華山は、五岳の中でも天下一とされる奇岩の山であり道教の聖地としても知られています。

その昔、聖山である華山に登ることは仙人であっても大変なことだったに違いありません。現在はロープウエーがあり、鞍部(あんぶ)にたどり着くことは誰にでもできるようになりました。

とはいうものの、連山の頂に登ることや縦走には、ちょっとした体力と度胸が必要な山です。こんな登山道を上ると手に汗をかきます。見下ろして植物の写真を撮ると足が震えます。カメラマンを職業にしなくてよかったと思います。

急な登山道から見下ろすとシナノキ属の苞葉が赤く色づく様子が観察されました。

No.10 Tilia spp.(ティリア)アオイ科シナノキ属。華山に生息するシナノキ属の種は特定ができませんでした。シナノキ属は、昔はシナノキ科といわれていました。DNAの塩基配列の解析による分類体系ではアオイ科とされています。

シナノキ属は落葉の高木であり、北半球に多くの種が分布します。この植物は、花の形態が面白いので、少しばかり解説をしておきます。シナノキの仲間は、夏になると長い花柄を持った花序が総苞を伴い開花し実を付けます。

よく見ると花柄は、総苞の中央付近から出ているように見えます。それは、花柄が途中まで総苞に合着しているからです。秋になると種子は、手のひらの上にある(写真)ように総苞を伴い落下します。それは、ヘリコプターのプロペラのようにくるくる回りながら風に乗り散布されるのです。華山の断崖からこの種が落ちてくることを想像してみました。

写真は、ティリア ミケリアナTilia miquelianaアオイ科シナノキ属です。中国中南部に原生するこの木は、日本ではボダイジュと呼ばれていますが、その名前は勘違いから付けられました。釈迦がその木の下で悟りを開いたとされる菩提樹は、熱帯性のゴムノキの仲間ボダイジュFicus religiosa(フィカス レリギオサ)クワ科イチジク属です。日本でボダイジュと呼ばれる木は、温帯である中国において、ボダイジュの代用品だったのです。その代用品のボダイジュが菩提樹として日本に広まってしまったのです。

写真の左側が本当のボダイジュFicus religiosa(フィカス レリギオサ)です。右側が華山に生えていたシナノキの仲間です。いずれも葉が葉柄を持った心臓形で先端が長い尾状になっています。確かに葉の形状はよく似ています。

崋山にはいくつかのガマズミ属の開花が見られましたが、手に取る位置に生えていないため同定が難しいのですその中でも黄色い花を付けるガマズミ属は見たことがない種です。

No.11 Viburnum spp.(ビバーナム)レンプクソウ科ガマズミ属。しいて名を付ければキバナガマズミという感じです。

No.12 山桃(シャンタオ shān táo)Amygdalus davidiana(アミグダルス ダビディアナ)バラ科モモ属。この植物をヤマモモと読むと違う植物になり注意が必要です。さすがにモモの国です。日本には自生がないモモ属の原生が普遍的に見られます。この株は崖から垂れ下がるしだれ性でした。

華山の植物は、木本だけを紹介してきましたが、少ないながら草本もあります。岩棚に風化した花崗岩が積もり、コケが生え、落ち葉が積もればわずかながら土壌ができます。

No.13 ホザキイカリソウEpimedium sagittatum(エピメディウム サギタツム)メギ科イカリソウ属。強壮剤の原料にされるという中国に固有のイカリソウです。植物自身は知っていましたが、原生する環境を知ることができたのは収穫でした。

ホザキイカリソウの花は、独特の距が伸びていないので、私たちの知っているイカリソウのイメージとはだいぶ違います。しかし、葉はイカリソウ独特の二回三出複葉となっていて、三枝九葉草の別名もあります。ホザキイカリソウは、中国南部に生えますので陝西省は分布の北限だと思います。

尾根道の乾燥した岩の割れ目にはOxytropis spp. が生えていました。

No.14 Oxytropis spp.(オキシトロピス)マメ科オヤマノエンドウ属。オヤマノエンドウ属は、寒地や高山の乾燥地帯に多いゲンゲの仲間です。 

華山に生える植物は、まだまだあるのですが、このあたりで華山シリーズを終わりたいと思います。最後に垂直の崖に満開の花を咲かせるコデマリ Spiraea cantoniensis(スピラエア カントニエンシス)の花姿を目に焼き付けておきましょう。

次回は、唐の時代、楊貴妃の専用温泉が造られた華清池のお話です。お楽しみに。

JADMA

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